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応援メッセージ

猪熊隆之 おススメの山 エベレスト(後編)

2024.08.09

山の日アンバサダー
山岳気象予報士
猪熊隆之

山岳カメラマンとの登頂

難所のひとつ、ヒラリーステップを越えて次のピークを過ぎると山頂が見えて来た。「あと少しだ。」焦る心を抑えて一歩ずつ頂に近づく。この21年間のこと、入院したことなどを思い出して胸が熱くなってくる。

山頂への関門、ヒラリーステップ(撮影:三戸呂拓也)

そして、夢にまで見た山頂に到着。マカルーやチョ・オユーなどヒマラヤのジャイアンツが全て眼下に見える。ここが文字通り、世界のてっぺんなんだ!空がなんて青いんだろう。雲がなんて低いんだろう。振り返るとくしゃくしゃになった三戸呂拓也の顔。

彼は今回のエベレスト登山で、私に同行してもらった山岳カメラマンである。田中陽希さんが三百名山の完全人力踏破に挑戦する様子を追ったNHKの「グレートトラバース」や、アドベンチャーレースを密着取材する番組「クレージージャーニー」などの撮影を手がけているほか、国内外の数々の山に登攀し、ピオレドール賞を受賞した平出和也さんとパキスタンのサミサールという未踏峰に登頂している。明大山岳部出身で、私とは国立登山研修所の講師仲間でもあり、共通の友人、知人も多く、色々な場所で顔を合わせていた。2014年には日本テレビ「世界の果てまでイッテQ」のエベレスト登山で一緒に仕事をする機会があった。そのときは、アイスフォールで大規模な雪崩が発生し、ルート工作をしていたシェルパが巻き込まれて16名の命が奪われた。この事故で、登山が中止となったが、その帰りにカトマンズで飲んだときの彼の悔しがっていた様子が忘れられず、今も私の頭に残っていた。それで今回は彼に撮影をお願いすることにしたのだ。だから、今回の登山では「私が登頂できなくても絶対に登頂してくれ。」と言っていた。その彼と一緒に山頂に立てたのだ。彼と抱き合いながら熱いものがこみ上げてきた。この瞬間を何度、イメージしてきたことか。彼の10年越しの思い、そして私の21年後の思いが重なった。

山頂での筆者(撮影:三戸呂拓也)

これまではずっと応援する立場だった自分が初めて挑戦する立場になった今回の登山。昨年秋のマナスル登山で、現場で予報することの大変さを痛感した。日本で予報を出すときとはプレッシャーが全く違う。恐らく、天候が悪くて登れなかったとなれば、その場で糾弾されるだろう。そういう危機感がある。しかも今回は、自分の参加する登山隊だけでなく、海外の登山隊を含めて3隊に発表した。しかしながら、このプレッシャーも自分のエベレスト登山にとって必要なスパイスだったと思う。どんなことであれ、目標を達成するためには必ず途中に乗り越えなければならない困難な壁が現れるものだ。どんな困難も自分を成長させてくれるし、それを楽しんで乗り越えていければ、順調にいくときより何倍もの充実感、達成感が得られる。今回も入院や予報といった困難があったからこそ、山頂での喜び、そして下山したときの安堵感が大きかったと思う。

今回の相棒、三戸呂と下山した喜びに浸る

そして、参加したメンバーそれぞれにとってエベレストは大きな目標であり、この登山はそれぞれにとっての大きな挑戦、冒険なんだということを知ることができた。自分にとっても、気象という見えないものを追い求める挑戦であり、天気予報という不確実なものへのチャレンジであり、今まで知らなかった未知のものへの探求の旅であり、体力的、技術的、体調的に今の自分にとってギリギリの山登りへの挑戦であったと言える。今は登山の余韻に浸りながら、次はどこの山で予報をしようかなと考えている。

記:2024年 山の日アンバサダー 猪熊隆之



山の日TOKYO 2024

もうすぐ8月11日「山の日」です。
第8回「山の日」全国大会TOKYO 2024が開催されます。
山の日アンバサダーに、おススメの「東京の山」や「身近な山」をお聞きしました。



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