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山の日レポート

山の日レポート

自然がライフワーク

登山で病気に負けない体をつくる(1)健康増進につながる登山

2024.01.20

山の日通信員
日本山岳会 群馬支部山の通信員G
日本山岳会群馬支部根井

はじめに

群馬大学大学院医学系研究科教授・同大附属病院長の齋藤繁氏(日本山岳会群馬支部副支部長)はその著書で「山登りの健康増進法」をわかりやすく説明し、日本山岳会群馬支部の健康登山塾の実践を踏まえ、登山を楽しみながらの健康維持・増進を薦めています。ここでは全9回にわたり、著書「登山で病気に負けない体をつくる健康トレーニング」(上毛新聞社刊)から一部を引用する形で登山と健康維持・増進について解説します。最終回では筋力トレーニングについても具体的に紹介します。
*本連載は著者と出版者の許諾に基づくもので、無断転載、引用は禁じます。

雄大な自然の中で体を動かし心と体を再生させる(湯ノ丸山)

健康長寿を満喫するための健康登山

健康増進を考えるとき、健康を損なう原因を理解して、そうした原因を避けるのが近道かもしれません。健康を損なう原因には、外因性のものと内因性のものがあります。外因性の主なものは、強い物理的な力、熱、放射線、紫外線などで、ケガや火傷などを起こします。また、寄生虫、細菌、ウイルスなど病原体と呼ばれる外敵も体に入り込んで正常な細胞を壊す外因です。
一方、内因性の原因は、遺伝子異常などの先天的な体質、長年の生活習慣がもたらす動脈硬化や臓器の不調、確率的に発生する異常な細胞の増殖(がんや肉腫)などです。外因性のケガも内因性の骨の脆さや皮膚の異常などで起こりやすさが変わるので、健康を損なう原因が外因と内因のどちらかだけという場合よりは、両者が相互に関係して健康状態を危うくすることがほとんどです(イラスト)。
健康を危うくする外因は、活動上のさまざまな注意で避けることができます。感染対策の手洗いやうがいはその代表です。皮膚を守るために長袖を着て手袋をすることや、関節を保護するためにサポーターを使うことなども外因を弱めるための工夫です。一方、ケガや病気の原因となる内因性の要素を減らすためには、日頃からの健康管理と鍛錬で体を健全に保つしかありません。
登山というスポーツは各人の体力に合わせて無理なく長期間取り組むことが可能なので、健康長寿につながる体の健全性を維持し、内因性の病気の原因を減らすことに大きく貢献します。「健康登山」という概念は、優秀な登山家や山岳耐久レースの成績優秀者を目指すものではなく、普通の中高年者、熟年者が健康長寿を満喫するための登山の形態です。

体の障害は内因と外因で発生する

山に囲まれた地の利を生かして

登山が健康増進に効果的である主たる理由は山登りが持久系の運動であることです。持久系の運動をすることで内臓脂肪を効率よく燃焼させることができ、糖尿病や高血圧などの予防にも役立ちます。生活習慣病にならないためには食生活の改善と運動習慣が重要ですが、「健康増進登山」はこの目的にピッタリです。一生涯継続的に取り組める運動こそ、健康長寿に貢献しますから、その意味で、自分のペースを守りさえすれば、何歳になっても取り組める「登山」は理想的と言えます。心身リラックスのための運動量にとどめることもできれば、段階的に行程の所要時間を縮めながら体を鍛えることもできます。ただし、自分のペースを大切にするといっても、定期性は大切です。天候も体調も絶好の時にしか運動しないのでは健康増進にはなりません。週に3〜5回程度の運動、その中で月に何回か山に足を運ぶといったペースで継続的に取り組むことが大切です。
日本の国土はごく一部のみ平野で、ほとんどの自治体は山に囲まれています。著者の出身地群馬県では、学校の校歌に山の名前が登場しないことは稀で、晴れた日に屋外に出れば視野に山が入らないことはまずありません。こうした地の利を生かして、多くの方々が健康増進活動に取り組んでいただけることを期待しています。国全体に「登山を楽しみながらの健康増進」が普及することで、長寿国日本がただの長寿国でなく、真の健康長寿国になれると考えています。

赤城・鍋割山から眺める浅間山(手前は榛名山):群馬県では住宅地のすぐ裏から1000m〜2000m級の山並みが始まる

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