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山の日レポート

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自然がライフワーク

登山で病気に負けない体をつくる(6)栄養と水分、体温管理と転倒防止

2024.04.05

山の日通信員
日本山岳会 群馬支部山の通信員G
日本山岳会群馬支部根井

■ 健全な体を維持するための栄養摂取

偏った食生活や運動不足が続くと生活習慣病になってしまいます。「食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒等の生活習慣が、その発症・進行に関与する疾患群」というのが生活習慣病の定義で、糖尿病、脂質異常症、高血圧、高尿酸血症などのうち、先天的でないものがこの病名でまとめられています。生活習慣病やその前段階のメタボリックシンドロームの予防がしきりに叫ばれるのは、これらの病気自体は生命を直接脅かすことがなくても、放置すれば心筋梗塞、脳梗塞、腎不全など死亡率の高い病気へと進行するからです。
生活習慣病を予防するための食生活では、昔ながらの日本の食生活に戻るのがよいと言われており、諸外国の富裕層で日本食ブームが起こっているのもこのためです。ご飯に納豆、焼き魚、野菜のごった煮など、総カロリーが高くなく、一方、体に必要なタンパク質やビタミン類、繊維質などは十分にとれる献立がお勧めです。ただし、塩分の摂取量過剰が高血圧の危険因子であること、もともと日本人ではカルシウム摂取量が少ないと言われていることなどには配慮する必要があり、日本食でも薄味をよしとし、牛乳やヨーグルトも積極的にとることが勧められます。
動物はもともと飢えに耐えられるように体がつくられていて、高カロリー食品があふれている現代人の環境は生き物の生活空間としては異常なことです。ですから、現代を生きる人々は体に備わった飢えに強い体の欲求を少し意図的に抑える必要があります。幸い、山の中では簡単に食糧が手に入りません。お金があってもお店もないのです。自分で担いで行く以外に調達法がないということは、カロリー制限にとても有利です。

山では食糧調達に制約が多い

■ 体をみずみずしく保つ水分のとり方

登山では脱水に特に注意が必要です。一般的な登山者の登山シーズンは夏場ですが、暑い中で長時間運動するので、汗で多くの水分が失われ、十分な水分(+電解質)補給が必要となります。しかし、山では飲みたい時に飲みたいだけ飲めるということはまれです。自分で持ち上げた飲み物で済ますことがほとんどなので、たくさん飲もうと思えば、大量に持ち上げなくてはならず、かえってたくさんの水分が汗と吐く息から失われることになってしまいます。暑い季節には、活動開始を早朝にして、全体の活動時間も短くするなどの工夫が必要です。

山では脱水防止に工夫が必要

快適な体温管理法

登山の特徴の一つは、天気や、気温、風などの気象条件、季節変化に大きく影響を受けることです。同じ山でも快晴の時と悪天候の時、夏と冬では体への影響が全く異なります。厳しい環境の中で体調を維持しながら活動するには、環境変化に対応する身体的能力と知識が必要になりますが、日常生活において病気になりにくい抵抗力のある体をつくるのにも、そうした能力、知識は有効です。気温・湿度の高い夏場は熱中症への注意が大切で、小まめな脱水補正が欠かせません。喉の渇きを感じにくくなる高齢者ではのどの渇きを感じなくても水分をとることが勧められています。一方、若年者は体の熱産生が大きいので、運動量を意識的に抑えることが大切です。汗で失われる電解質やエネルギー源も水分と一緒に摂取することが必要です。
温度が低い環境や、気温がそれほど低くなくても、雨や霧による体の濡れと風が合わさった場合、体表からの熱損失が大きくなり、急速に体温が奪われることになります。山中でも市街部でも防寒、防湿、防風を厳密に行うことが必要で、併せて、体の熱産生能を維持するためのカロリー摂取が欠かせません。
屋外ではもっぱら着衣で調節することになりますが、最近はウエアの改良が目覚しく、低温のみであれば防寒具で十分対応可能です。気化熱による体温低下を予防するには、着衣をできるだけ乾いたものに替えることと、ウインドブレーカー機能が欠かせません。重ね着をすると、それぞれの層の間に空気の層が何層にもできるので温度の微調整が容易です。ただし、それぞれの衣類のつなぎ目から冷気が吹き込まないように、服の合わせ目は十分な幅を持って重なり合い、緩みのないように工夫する必要があります。

着衣による体温調節には重ね着が便利

転倒防止のために必要な体の機能

高齢者が寝たきりになる直接的原因の一つは、転倒して骨折し、しばらく安静にしなくてはならなくなることです。安静にしているうちに使われない筋肉の力が急速に衰え、動かないことでよどんだ血液が、各種の血栓症を誘発します。また、勢いのよい呼吸や深呼吸をすることがなくなって、よどんだ空気の中でウイルスや細菌が繁殖し肺炎になります。動けない時間が長くなればなるほど、さらに動けなくなっていきます。また、ケガ自体が治っても、いざ動き始めるにはかなり真剣にリハビリテーションに取り組む必要があり、元の筋力、体力まで回復できるかどうかもわかりません。ですから、動けなくならないためには動き続けることが大切で、そのためには動きながらもケガをしないための慎重さが欠かせません。
転倒によるケガを防止するには、体の位置を正しく認識する平衡感覚と姿勢を維持するための筋力を備えておくことが必要です。小脳や脊髄から転倒を避けるための指示がいくつかの筋肉に発信されたとしても、受け手の筋肉にそれに対応する力がなければ、必要な筋肉が踏ん張って体勢の崩れを止め、素早く姿勢を元に戻す動作に移れないからです。そうした意味で、背骨を取り囲む脊柱支持筋群、腹筋、背筋、重心を低い位置に保つための大腿筋群、足首の曲げ伸ばしで足元の障害物を避ける下腿筋群を鍛えておくことが有効です。また、筋肉群を柔軟に動かすには、ストレッチングなどで体をさまざまな方向にゆっくりと伸ばしたり、ひねったりしておくと効果的です。

転倒によるケガが健康長寿の大敵

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