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山の日レポート

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自然がライフワーク

「TOKYOにも山がある!」第5回 おとめ山

2023.11.16

山の日通信員
三輪主彦

第5回 おとめ山

 JR目白駅をでて学習院の傍の坂を下ると神田川の低地に出る。山手線をくぐってしばらくすると「おとめ山」公園に出る。右手に急な坂があるが独立した山には見えない。「やま」というのは武蔵野のあたりでは雑木林のことを指した。この辺りは徳川の将軍様の鷹狩の場所で一般人が入ってはいけない「御留め」山だった。かわいい乙女がいたわけではないのだ。残念!

 江戸名所図会の「落合惣圖」を勝手に改変して色を付けてみた。「おとめ山公園」とあるあたりは一面の雑木林のように描かれているが、現代風に芝山のように色を付けてみた。水の流れもあり子どもたちには格好の遊び場になっている。左側のおとめ山と描いたあたりは昔ながらの深山幽谷の趣があり、都会の中のオアシスになっている。

 おとめ山は落合崖線の斜面を下から見上げた時に見える景色で、山の上に上がってしまえば背後には住宅街が広がっている。そこは山の手台地である。これと同じ地形は落合で合流した神田川の下流、江戸川橋あたりにある「椿山」も崖面に作られた山である。

現在も存在している田島橋から「おとめ山」を望んでいる風景、かなり山のように描かれている

 教養高い新宿区の公園だけあって説明は詳細で、錆びた脳みそには新鮮な知識が刺激的だ。しかし徳川家の鷹狩り場がなぜ相馬藩に渡ったのかはここではよくわからない。家に帰って調べようと思っていたがすっかり忘れたのをいま思いだした。

 芝生広場は子どもたちの遊び場としていいが、隣の谷戸に入ってみると騒然とした新宿とは思えないほど静かな散歩道になる。山頂近くの東屋に地元の人たちが立てた「おとめ山賛歌」の碑が立っている。この閑静さを後にも残してほしいものだ。

 私はおとめ山を訪れたあと、すぐ近くにある薬王院にいく。春の季節にすばらしい牡丹が咲く寺として知る人ぞ知る寺である。西新井大師や上野寛永寺などの有名牡丹園に比べればまだゆっくりと花を眺めることができる。しかしSNSの時代なのでいつ人が殺到するかわからない。

本物の乙女の山:「おセンチ山」

 おとめ山が乙女の山ではないと嘆いたら、「乙女の山なら三田の綱の手引き坂の途中にあるよ!」という声があった。普通の人は入れないけど旧女子校の校庭に「おセンチ山」と名付けられた山がある。この学校の卒業生ならだれでも知っているそうだ。
 なんとか入れないかと思っていたら学校説明会があるという。孫を来年の受験生と言わせてなんとか学校見学に成功。校内見学のついでに「おセンチ山」に登ることができた。

 おセンチと言っても現代の子にはわからないかもしれない。辞書には「センチメンタルの略語で感じやすくて涙もろいさま」とある。いまはナーバスと言うそうだ。
山の上にはベンチがあった。そこに座って感傷的になっている乙女の姿が私には想像できたが、
「虫がいて座っていられない!」と孫には乙女の姿を拒否された。

 もしかするとどこかほかにも「乙女の山」が隠れているのではないかと思う。ぼそぼそとここで話したら、どこからか「ここにもるよ!」との声が聞こえてきそうだ。

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