
山の日レポート
国際山の日
ケシャブさんレポート 回想③:山岳国気候変動国際会議(2012)
2025.12.16
2012年4月、ネパールの首都カトマンズに各国の代表団、研究者、政策立案者が集まり、「International Conference of Mountain Countries on Climate Change(山岳国気候変動国際会議)」が開催された。これはネパール政府が率先して創設された国際協力枠組み、マウンテン・イニシアティブ:パートナーシップ(MI)による国際的取り組みであった。この会議の共催・支援には世界銀行、アジア銀行、国連開発計画(UNDP)、EU、米国国際開発庁(USAID)、英国国際開発省(UKDFID)、オランダ開発機構(SNV)、ノルウェー大使館、国際山岳開発センター(ICIMOD)などの名が連なっていた。会場はカトマンズトップの外資系ホテルで、開会式にはR. B. Yadav(ヤダブ)ネパール大統領が主賓としてスピーチをした。そのこともあってかセキュリティはとても厳しかったことが覚えている。開会式に、エベレスト21回登頂(当時)したApa Sherpa(アパ・シェルパ氏)のビデオメッセージ、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)会長Dr. R. K. Pachauri (パチャウリ博士)のキーノートスピーチがあった。
当時、温室効果ガスの排出、地球温暖化、気候変動に関する一連の議論で海面上昇や熱帯地域の被害に比べ、山岳地域の諸問題はしばしば世界的関心の外に置かれていた。山岳地域には、温暖化に伴う氷河融解が加速し、氷河湖の拡大や氷河湖決壊洪水(GLOF)リスクの増大、解け水の流量変化は農業や生活用水に影響、地滑りや豪雨災害の増大など山岳特有の問題がある。これらの問題は山岳地域を超えて広範に深刻な影響を及ぼす。ゆえに、これらの諸問題について広く認識してもらい、国際気候交渉などの会議のテーブルに乗せ、気候変動の議論のなかで山岳地域の課題、山岳地域の守護者としてそこを住処とする住民の声の優先順位を高めることをこの会議の目的として位置づけされていた。
二日間にわたったこの会議には4つの主題のセッションがあった。1)山岳地域における気候変動の影響、脆弱性、適応の選択肢および気候資金、2)山岳地域における気候変動:知識創出、生態系サービス、山岳住民の生計、及び山岳アジェンダ、3)国際気候交渉における山岳と気候変動、4)山岳と気候変動に関するカトマンズ宣言(行動要請)はそれである。
会議には、アジア、南米を中心に23の山岳国に加え、国際機関や地域研究機関の代表の参加があった。第二のセッションに日本から人間文化研究機構の中尾正義教授が参加されていた。会議を通して参加者は、気候変動がもたらす共通の脅威と、それに対する各国の経験や課題を共有した。
会議の中心的な成果は、山岳国が共同して取り組むべき方向性を明確に打ち出した以下の三点だと理解される。第一に、気候変動の影響を科学的に把握するための研究協力体制の強化が強調された。山岳地域のデータは不足しており、氷河・降水・地質災害に関する観測網の整備は急務であった。第二に、適応策のための国際的な資金へのアクセス強化が求められた。多くの山岳国は財政的に脆弱であり、気候災害への備えを確実にするためには、国際社会の支援が不可欠である。第三に、山岳地域の住民の暮らしと文化を守る視点が共有され、持続可能な観光や伝統的知識を生かした資源管理など、地域の強みを生かしたアプローチが再評価された。
また、特別セッションにおいてCOP18開催国カタールの環境大臣がこの会議でまとめられた議論・宣言をCOP18に重要なテーマとして取り上げることの意思表示がされた。その意味でもこの会議は、後の国際議論にも確かな影響を与えた。山岳国が連帯して声を上げることにより、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)やCOPでも山岳問題が取り上げられる機会が増えたと言える。また、その後のMIの展開や、ICIMODを中心とした科学協力の強化にもつながったことがわかる。山岳地域は、単なる自然の存在ではなく、気候変動の最前線であり、地球規模の水資源を支える生命線であるという認識が、国際社会で徐々に共有され始めたのである。
今日、気候変動の影響はさらに深刻化している。氷河は減少のスピードを上げ、山岳災害も複雑化している。2024年8月、ネパールヒマラヤでThyanbo氷河湖が決壊し、Thame村、ナムチェ地域(エベレストベースキャンプ)にある伝統的なシェルパ村(海抜約3,800 m)を流れるThame川流域で氷河湖決壊洪水が発生した。洪水は大量の水、泥、岩を村まで運び、約50%の家屋やインフラを破壊した。生活の基盤が失われた人々はカトマンズまで非難した。
山岳の問題はもはや一地域の問題ではなく、人類全体の課題となったのである。この会議は、単なる国際会議の一つではなく、世界の山岳地域が直面する急激な変化に対し、山岳国自身が声を上げ、課題を共有し、共に未来を語り合う重要な節目として位置づけられよう。
「山を守ることは未来を守ること」である。

科学委員会委員 マハラジャン、ケシャブ・ラル さん
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