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『東京超低山』第10回 富士塚(3)「成子富士」

2024.07.19

山の日アンバサダー
イラストレーター
中村みつを

 東口はネオン輝く繁華街、片や西口は高層ビルの立ち並ぶオフィス街。そんな熱気にあふれた新宿の街に、なんと天を突く富士の姿があった。にわかに信じがたいが、本当だ。その名は成子富士、富士信仰によって人の手で造られたミニチュア富士になっている。
 新宿駅西口を出て登山口を目指す。立ち並んだ超高層ビルを見上げながら青梅街道を西へ行くと右手にビルにはさまれるように成子天神社が現れる。長い参道に入ると創建1100年の歴史を誇る神社にしてはどこか趣が違う。じつは高層マンションの開発にともない、境内は隅々まで真新しく改修され、朱塗りの本殿は眩しいほどの造りになっていた。撫牛があることからわかるように、ここには「学問の神様」として知られる天神さま、菅原道真が祀られている。

イラスト:中村みつを

 お待ちかねの成子富士は本殿を回り込んだところに、でんと鎮座していた。ゴツゴツとした円錐形の富士塚は、まわりの高層ビルに負けないくらいの堂々とした存在感をみせている。   
 築造は大正9年(1920年)、境内にあった天神山をベースに高さ12mの富士塚が築かれた。富士講は地元の柏木・角筈地域(現在の北新宿、西新宿)の人々が中心になって組織した丸藤成子講が運営にあたった。講の力もあったのか、新宿区最大の富士塚(他に高田富士、東大久保富士、西大久保富士、新宿富士、上落合富士がある)で黒ボク石(富士山の溶岩)もたっぷり使われている。

 登山口の鳥居をくぐり、まずは浅間神社里宮にご挨拶。隣にある木花咲耶姫命の石像はかつて頂上に立っていたものだが2011年に発生した東日本大震災で滑り落ちてしまい、いまは麓に安置されている。その姿は奇跡的に無傷だったという。

 気持ちが整ったところで、いざ登山開始。本家の富士山を模しているだけに小さくたって気分は富士登山だ。下部はツツジなどが植栽され講碑や烏帽子岩などを配し、お中道には小さく小御嶽神社も祀られている。

 プチ富士のクライマックスはここから、渦巻状に造られた小道は傾斜がぐっと増し、上部は溶岩の城壁を思わせる。小さな富士山といえど、登高欲をそそるうまい造りだ。奥宮のある山頂は狭く、3、4人がいいところか。岩峰なだけに高度感はなかなかのもの、下山はとくに注意していこう。

 高層ビルに囲まれたポツンとそびえた小さな富士山のてっぺんに立つと不思議な高揚感に包まれた。100年前の人々が遥拝した富士はどんなふうに眺められたのだろう。いまはその富士を拝むことはできなくなったけれど、時空を超えた眺めはどこか未来をのぞいているように思えた。

「東京まちなか超低山」より 東京の超低山をご紹介

第8回「山の日」全国大会の東京大会開催に向けて、2月からスタートした中村みつをさんの連載『東京超低山』も10回目となりました。
東京が都会であると同時に、その街なかに「すてきな山」があることに興味を持っていただけましたか?

まもなく8月11日「山の日」です。
東京は、大都市でありながら、雲取山や高尾山などの山々や、丘陵地の里山、市街地の緑地や水辺、島しょ部の原生的な自然など、多様で豊かな自然を有する世界でも類を見ない都市です。
ぜひ皆さんも都内の超低山を訪ねて、未だ見ぬTOKYOの景色に触れてみてください!

イラスト:中村みつを「東京まちなか超低山」より 東京の超低山をご紹介

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