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『東京超低山』第9回 富士塚(2)「千駄ヶ谷富士」

2024.07.05

山の日アンバサダー
イラストレーター
中村みつを

 天気のいい日に、ふと富士山と目が合ったとき、ついうれしくなってしまう。これまで何度も見ているはずなのに、「今日もいい日に」なんて、そんな思いになる。
 高架を走る総武線に乗って富士山と朝の挨拶をしたときもそうだった。そうだこのままミニ富士に会いに行こう。千駄ヶ谷駅で降りたつとまっすぐ南へ向かう。左手に行けば東京オリンピックで話題になった隈研吾デザインの国立競技場がでんと陣取っている。鳥居が見えたらそこは鳩森八幡神社、ぼくがはじめて富士塚を体験した千駄ヶ谷富士が鎮座しているところだ。

イラスト:中村みつを

「千駄ヶ谷富士」

 寛政元年(1789)築造。都内に現存する最古の富士塚といわれ『江戸名所図会』にも今と変わらぬ富士が描かれている。高さは6mほど、富士山に見立てた姿はちょっとふっくらしたコニーデ型で、頂上部は溶岩の黒ボクで固めて迫力を出している。
 その周りには本物の富士山にまつわる烏帽子岩に食行身禄像、それに亀岩や釈迦の割れ石。さらに山頂には奥宮をはじめ霊水とされる金明水と銀名水を石の窪みに再現していて、芸が細かい。
 裏側には急峻な「砂走り」まであり、5合目を表す小御嶽石尊大権現が祀られている。まるで富士塚のお手本を見ているようで、ぼくはいっぺんで好きになった。それに一年中いつでも登拝できるのもうれしい。そう、思い立ったらいつでも富士登山ができるのだ。

 登山口の脇に富士塚の案内板がある。これがまた大げさと思えるほど険しく描かれて登高欲を誘う。登山口は全部で4カ所。まずは正面から登拝しよう。鳥居をくぐり、石橋を渡る。池は富士五湖を見立てたお清め池。浅間神社の里宮をお参りして、露岩とクマザサの胸突き八丁の急勾配を登っていく。

 山頂は二人も立てばいっぱいの広さ。ビルがなかったころは、ここから富士山に向かって手を合わせたのだろう。ぼくは富士の方向に設えた奥宮に、そっと手を合わせた。小さな富士に心地よい風が通り抜けた。

「東京まちなか超低山」より 東京の超低山をご紹介

イラスト:中村みつを「東京まちなか超低山」より 東京の超低山をご紹介

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