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『東京超低山』第5回 築山(1)
2024.04.16
築山とは、江戸時代に各藩の大名が競って築造した庭園に人の手で造られた小高い山のこと。富士山をはじめとして、各藩の景勝地や名山などを縮景として多くの庭園に築かれた。
六義園の藤代峠(標高35m)、小石川後楽園の小盧山(標高10m)、浜離宮恩賜庭園の富士見山(高さ5m)、旧芝離宮恩賜庭園の大山(高さ5m)など数多くある。ここでは三つの築山を紹介しよう。
都内の低山で人気の箱根山。ぼくにとって「超低山」の楽しさを教えてくれたお気に入りの山でもある。もちろんあの箱根ではなく、歓楽街新宿からほど近いところに森に包まれた小高い山があることに驚かされる。アプローチは早稲田か、東新宿が近い。
新宿区にある都立戸山公園は、かつて尾張徳川家の下屋敷で「戸山荘」があったところ。東京ドーム9個分ほどあった大名庭園は江戸最大規模といわれた。寛文9年(1669)、二代藩主光友により造営された回遊式築山泉水庭園には25の景勝地が造られ、中央には御殿を守るかのように主峰の麻呂ヶ嶽(その後、玉圓峰)が聳えていた。現在の箱根山である。
広大な公園と団地にその姿を変えた庭園だが、箱根山だけが奇跡的に残された。木々に囲まれた山麓から上がると築山とは思えないスケールの大きさに目をみはる。中腹まで登ると、ちょうどお椀をかぶせたような山容の山頂部が現れる。その周りはぐるっと一周でき、3ヶ所の登山道がある。この部分こそ、かつてあった広大な大泉水(大池)を掘った残土で造られた人工の築山になる。つまり高台にもうひとつ小山を盛った感じだ。
山頂は築山にしては広い。標高44.6mと刻まれた標石板と水準点が設置され、山手線内にある山の中では最高峰になる。面白いのは超レトロな風景指示盤で赤城山、霞ヶ浦、房総半島、富士山、奥多摩などが示してあり、国技館や東京タワーは絵入りだ。どこまで本当か、今となってはわからないが年季の入った造りは大まじめだ。
時代は大きく変わったが、山頂からは今でも味わい深い戸山教会を眼下に西新宿の高層ビルが眺められる。箱根山が最も華やぐのはお花見の季節だろう。中腹に植えられたソメイヨシノが山頂を囲むように咲き誇り、まるで桜色の雲海を眺めているようだった。必見です。
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