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『東京超低山』第4回 天然の山(3)
2024.04.01
北区にある飛鳥山は他のふたつの山と違い山頂に神社や寺もなく、とてもフレンドリーな山になっていた。この山が一躍人気になったのは8代将軍・徳川吉宗の思いがあってのこと。当時、質素倹約を強いていた吉宗は庶民に娯楽の機会を与えるため、1270本の山桜を植えて開放したことから江戸随一の花見の名所になった。そう、飛鳥山は300年経った今もずっと変わらず庶民の憩いの山になっていた。
地形を見ていくと武蔵野台地から派生した尾根筋のひとつに飛鳥山が高まりとなっている。その尾根の末端は上野になるが、その様子は京浜東北線の車窓からも確認できる。
その飛鳥山は王子駅前に鎮座して、まさに駅前登山。新一万円札で話題の実業家・渋沢栄一も、明治時代にこの山の上に邸宅を構え、亡くなるまでの30年間ほど暮らした。残念ながら本邸は戦災で焼失したが、飛鳥公園の一角に旧渋沢庭園として「青淵文庫」と「晩香盧」の二つの建物が当時の面影を残している。
山上の半分ほどは遊戯施設などの公園になっているが北寄りは江戸時代の錦絵を想像させるような要素を見せていた。「飛鳥山の碑」もそのひとつで、錦絵にここを描けば飛鳥山と言われるほどのランドマークになっていた。
そのあたりから起伏のある小さな山並みが続いている。こここそ江戸時代の飛鳥山の名残を感じさせる貴重なもの。春には桜一色に染まる花道でもある。そのまま進むと自然と山頂を示すモニュメントに導いてくれる。石を積み上げたモニュメントのケルンには標高25.4mと刻まれ、ぐっと登頂気分を盛り上げてくれるはずだ。
山上の北端には「アスカルゴ」という登山電車(モノレール)の山頂駅がある。高低差約18mを2分かけて上がってくる。待乳山の小さな登山電車からみれば、こちらは16人乗りで少し兄貴分といったところか。今日も小さい子を連れたファミリーでにぎわっている。
近くには起伏に富んだ名主の滝公園があるのでそちらにも寄ってみよう。江戸末期に名主の畑野孫八が造った庭園には、深山幽谷の山道をたどりながら落差8mの男滝をはじめ四つの滝を楽しめるようになっている。
駅の周りには飛鳥山に音無渓谷と、王子は今も昔も行楽の町になっている。そんな山の帰りに、お土産も楽しみのひとつです。創業明治20年の甘味の石鍋商店で江戸久寿餅(くずもち)を持ち帰るもよし、それとも創業慶応元年の落語「王子の狐」に登場する老舗扇屋の甘い玉子焼きとしましょうか。どちらもおすすめの逸品です。
(次回、第5回は4月16日掲載予定)
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