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『東京超低山』第3回 天然の山(2)

2024.03.16

山の日アンバサダー
イラストレーター
中村みつを

「待乳山」

そもそも真っ平な下町浅草に山なんてあるのだろうか。東京スカイツリーを右手に見ながら隅田川沿いを行くと大聖歓喜天をご本尊とする待乳山聖天がある。こここそが東京23区内でもっとも低い天然の山、標高9.8mの待乳山(まつちやま)だ。まさか浅草寺の裏手に山があったとはちょっと驚きかもしれない。
待乳山は昔から人気の景勝地として錦絵にも多く描かれ、その姿は小丘ながらまさに山。江戸随一の眺望のよさは、東に筑波山、西に富士山を望めたという。

イラスト:中村みつを

登山口は二手に分かれているがすぐに山門でひとつになり、穏やかに石段を上がっていく。周りには二股大根と巾着の彫り物がやけに目につく。二股大根は子孫繁栄、巾着は商売繁盛にご利益があるとされる。本堂には本物の大根が山のようにお供えされて、なんとも微笑ましい。正月7日には恒例の大根まつりを行い、ご本尊さまにお供えされた大根をふろふきにして神酒と共に参拝者に振る舞ってくれる。

二股大根と巾着の彫り物

気がつけばいつの間にか本堂の建つ山頂に上がってきたことになる。山頂には心地いい風が通り、何度訪ねても自然と穏やかな気持ちになれる、とっておきの名山だ。今も昔もずっと庶民に親しまれてきたのがわかる気がした。
本堂の西側に回ると、切り立った待乳山の高低差を感じるはず。ちょうど向かい側にある建物の3階ほどの高さになる。待乳山の裏手にはかつて今戸橋が架かった山谷堀があったところ。「鬼平犯科帳」で長谷川平蔵がよく利用した船宿「鴨や」はこのあたりだろう。当時、遊郭の新吉原へ行くには、この山谷堀で船を降り、浮世絵にも描かれた日本堤の土手を歩いて不夜城吉原へ向かった。その山谷堀も今は埋め立てられ桜並木の静かな公園になっている。

本堂の建つ山頂

天然の山だけに、ここにもちゃんと三角点がある。ところがこれが見つけにくい。ヒントは天狗坂の石段近くの敷石。東京スカイツリーのビューポイントでもある。読み取れにくいが、よく見てみると三等三角點と記されている。
その三角点のすぐ近くには12年前に設置された赤い小さな乗り物がある。はじめて見た人はたいてい驚くだろう。「さくらレール」と呼ばれたモノレールは4人乗りで乗車時間は麓まで1分ほど。標高10mもない小さな山なのに途中駅(寺務所)もある。そういえば飛鳥山にも「アスカルゴ」というモノレールがある。こちらは16人乗りと大型になるが同じような仕組みだ。

「さくらレール」

ふたつとも天然の山らしく、まさに斜面を登る登山電車そのもの。では、さっそく都内で最も小さな山の登山電車に乗って下山としよう。発車ベルに合わせて麓に向かって、いざ出発。なんとも楽しい粋なお江戸の山歩きとなった。

(次回、第4回は4月1日掲載予定)

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