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『東京超低山』第2回 天然の山
2024.03.01
山といえば「天然の山」が当たり前だが、果たしてそんな天然の山が都心にあるのだろうか。手掛かりにしたのは「江戸切絵図」、いわゆる今でいう住宅地図のようなもの。それに歌川広重が描いた「江戸名所百景」などの錦絵から、23区内で現存している天然の山を探してみた。すると愛宕山/(標高26m港区)、待乳山/標高9.8m(台東区)、飛鳥山/25.4m(北区)の3座が、小さな独立峰として、今もしっかり東京の街なかに鎮座していた。
ひとつ目の愛宕山は江戸東京を代表する名山だ。一躍名を馳せたのは、三代将軍・徳川家光のひと言で、急峻な男坂の石段を馬で駆け上がり、山頂の梅を手折って将軍に献上した四国丸亀藩の家臣・曲垣平九郎。家光に「日本一の馬術の名人」と称賛された。いつしか「出世の石段」と呼ばれるようになり武士たちの名所になった。今は「出世の石段」を、スーツ姿のビジネスマンたちが出世を願って石段を上がっていく。
古くは桜田山と呼ばれた愛宕山は、徳川家康が火伏の神様として愛宕神社を勧請したことからその名がついた。標高26mは、天然の山としては23区内最高峰。名跡の男坂、別名「出世の石段」はその数86段、高低差約20m、傾斜角37度にもなり正面に立つとまるで切り立った壁のように立ちはだかる。
江戸のころは江戸湾の先に房総を望み、江戸一の眺望を誇った。幕末に訪日したフェリックス・ベアトが撮影した山頂からの江戸の町並みはうっとりするほど美しく素敵なものだった。残念ながら現在は高層ビルに囲まれて、なんだか窮屈そう。それでも天然の山の力だろうか、その存在感は揺るぎない。その証拠に、天然の山を誇示するかのように山腹を愛宕隧道が小山を貫いている。これは23区唯一の山岳トンネルでもあった。
しばらく続いた山上の愛宕神社境内の工事も落ち着いたので出かけてみると、すっかり変わっていた。愛宕神社権禰宜の松岡里枝さんが「池も新しくして休憩所も設けました」と目を細めた。境内が明るくすっきりとして本来の山頂に戻った感じかもしれない。
標高の基準になる三角点も大きく見せ方が変わった。以前は蓋をされて分かりにくかったのが、三等三角点と記したプレートになって目につきやすくなった。山頂に立ったら、ぜひチェックしてみよう。
第8回「山の日」全国大会の東京開催に向けて、山の日アンバサダー中村みつをさんの「東京の街の山」のエッセイがスタートしました。東京の超低山をわかりやすく、どんな人にも楽しめるようにと書いてくださいました。
第1回東京の小さな山との出会いもご覧ください。
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