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山の日レポート

山の日レポート

通信員レポート「これでいいのか登山道」

【連載】これでいいのか登山道

2024.01.09

全国山の日協議会

よりよい山の道をめざして、私たちにできることは何だろうか?

前回に引き続き登山道法研究会の重信秀年さんに「奥武蔵・秩父の山道 ―歩いた印象と地元の取り組み」の後編をご寄稿頂きました。関東近辺の魅力ある地域の現状や、自治体の新たな取り組みについてご覧ください。

連載⑯ 奥武蔵・秩父の山道 ―歩いた印象と地元の取り組み― 後編

文・写真 登山道法研究会 重信秀年

「ハイキングのまち」を宣言したときの越生町の広報誌『広報おごせ』2016年4月号の表紙。 満開の越生梅林を行くハイカー。

低山歩きは、高山を目指す登山者の遭難防止に役立つ

 奥武蔵・秩父には1,000メートルに満たない山、いわゆる低山がたくさんあります。経験を積んだ釣り人が「釣りは鮒に始まり、鮒に終わる」と語るように、「登山は低山に始まり、低山に終わる」と私は思います。老いて仕方なく低山に登っているわけではなく、低山歩きが面白いのです。私はハイキングのガイドブックを書いていますが、日本の国土は山がちで、ハイキングはどうしても低山歩きが主になります。子供のころの遠足や野外活動を思い返すと、郷土の小高い山に登ることが多かったのと同じです。

越生梅林の付近の山々。明治・大正の小説家、田山花袋は 「静かで、鷹揚で、のんびりしている形は、関東の山とはちょっと思はれない」と評した。

 中高年の登山愛好者には、私にように学校の遠足で山に登ったり、家族でハイキングやピクニックに出かけたりした体験の楽しさから、高校や大学の山岳サークルに入って山登りを始めた人が多いのではないでしょうか。なかには大人になっていきなり日本アルプスに連れて行かれて山に魅了され、低山のことはまったく知らないという人もいるでしょうが、山の自然も道も麓から頂上まで続いているわけで、それでは基礎を欠いている感じがします。ぜひ身近な低山に登ってほしい。
 低山の道は歩いて楽しいだけでなく、登山者の養成やトレーニングに適しており、登山技能を向上させることで高山での安全な行動に結びつき、遭難防止に寄与していると思います。低山の登山道の維持は重要なことなのです。

越生町の黒山三滝は、今も昔も奥武蔵の人気ハイキングのスポット。西側の稜線に登って、高山不動尊や顔振峠に足を延ばすこともできる。

全国で最初に「ハイキングのまち」を宣言した越生町

 2016年、越生町は全国初の「ハイキングのまち宣言」を行いました。当時の町の広報誌には「山々に囲まれ、町の中央を越辺川が流れ、野原や田畑が広がっています。つまり、越生町内のどこを散歩したり、ウォーキングしたりしても山野をハイキングしているといえます。(略)このようなことから(略)ハイキングのまちを宣言することにしたものです」とあり、目的は「歩くことによる町民のみなさんの健康づくりと町外からの大勢のハイカーを受け入れ、観光振興につなげ、地域経済の活性化を図っていくこと」としています。さらには教育的な効果も図ったようで、同誌には「すすんであいさつをします」「道に落ちているごみを拾います」「道を教えます」などの言葉を掲げた町の子供たちの写真が添えられています。
 そして何よりも注目すべきは、「ハイキングのまち」が単なるスローガンではなく、町の取り組む主要事業として、ハイキングコースの整備などにきちんと予算を配分していることです。

越生町の農産物直売所の壁にはリュックを担いだ町のマスコット「うめりん」の絵と 「ハイキングのまち」の文字が記されている。

巾着田と日和田山のある日高市は「遠足の聖地」を宣言

 2017年には日高市が「遠足の聖地」を宣言しました。宣言書には「たくさんの子どもたちが遠足で本市を訪れ、豊かな自然にふれることで、伸び伸びと成長し、豊かな知性や感性を身に付けることができるよう、日和田山や巾着田を含む高麗郷一帯を整備します。住み続けたい、来てよかった、住んでみたいと思っていただけるまちを目指し、ここに『遠足の聖地』を宣言します」とあります。
 宣言のねらいは、園児・児童・生徒・引率者・親などに来てもらうことで、「ここは自然に恵まれた環境のよい所だ」と感じた人の中から「住みたい」と思う人が現れることにあります。そのために野山を整備しようというのです。奥武蔵の市町村はどこも過疎や高齢化が悩みで移住者の募集を行っています。地域社会が存続するためには、まずは多くの人に来てもらい、景色を眺め、気に入ってもらう努力が必要なのです。

日高市高麗本郷の巾着田の入口にある「遠足の聖地」の看板。遠足の子供たちの集合写真の背景によさそうだ。

人が歩かなくなると山の道は荒廃し、集落や町は寂れる

 近年、登山界では「登山道はボランティアが整備し、山のトイレは利用者が負担すればいい」という声が大きくなっている気がします。しかし、それで何とかなるのは、日本アルプスなどの人気の山だけではないでしょうか。奥武蔵のような地味な山々や高齢化の進む地域では、ボランティアの募集や利用料の管理を担当する人の配置すら難しいように思います。山道や山のトイレの整備は、国や地方自治体が真剣に取り組むべき時期にきています。
 低山登山者には周知のことですが、雨が多く植物の繁茂が著しい日本では舗装していない道は、人が歩かなくなれば、数年で藪の中に消えます。人が訪れなくなると、山の町や集落は寂れます。そうならないために、越生町や日高市の取り組みは注目に値します。せっかく登って気持ちのよい山があるのだから道を整備して、登山者やハイカーや地元の人々でにぎわう風景を維持してほしいものです。


しげのぶ ひでとし
1961年広島市生まれ。フリーランスのライター。広島県立国泰寺高校時代は山岳部、早稲田大学時代は探検部に所属。著書に『おすすめ! ソロキャンプ 関東・中部 厳選30』(東京新聞)、『50にして天命を知る 大人の御朱印』(同)など。
また、ここで紹介した地域を歩くためのガイドブックとして、 『多摩・奥多摩ベストハイク30コース』『奥武蔵・秩父ベストハイク30コース』(ともに東京新聞)なども著している。
【好評重版】多摩・奥多摩 ベストハイク30コース:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)
奥武蔵・秩父 ベストハイク30コース:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

日和田山の中腹にある金毘羅神社の二の鳥居は、麓から登ったときの休憩場所にちょうどいい。眺望が開け、眼下に巾着田を見渡す。

***「登山道」に関するご意見や投稿を募集します***

登山道法研究会では、この度、『めざそうみんなの「山の道」-私たちにできることは何か-』という報告書を刊行しました。頒布をご希望の方はこちらをご覧ください。
【連載】これでいいのか登山道 (yamanohi.net)

報告書の頒布は、以下のグーグルフォームからも簡単にお申込み頂けます。
報告書申し込みフォーム

先に刊行致しました「第1集報告書」は在庫がございませんが、ほぼ同内容のものが、山と渓谷社「ヤマケイ新書」として刊行されています。
ヤマケイ新書 これでいいのか登山道 現状と課題 | 山と溪谷社 (yamakei.co.jp)

また、このコーナーでも、全国各地で登山道整備に汗を流している方々のご寄稿なども掲載できればと思います。
この記事をご覧の皆さまで、登山道の課題に関心をお持ちの方々のご意見や投稿も募集しますので、ぜひご意見、ご感想をお寄せください。
 送り先=gama331202@gmail.com 登山道法研究会広報担当、久保田まで

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