山の日レポート
通信員レポート「これでいいのか登山道」
【連載】これでいいのか登山道
2023.12.01
連載15回目は、登山道法研究会の重信秀年さんに「奥武蔵・秩父の山道 ―歩いた印象と地元の取り組み」と題してご寄稿を頂きました。関東近辺の魅力ある地域の現状や、自治体などの取り組みについて、2回に渡って綴って頂きます。
文・写真 登山道法研究会 重信秀年
「大学探検部OBでハイキングか」と遠慮のない友人は笑います。でも私は低山歩きや里山ハイキングが好きです。低山には登山の楽しさが詰まっているから。道の脇を流れる沢の水は清く、緑は鮮やかで、市街では見かけない花が咲く、ザックは軽く、歩行時間は短い。それでいて見晴らしのよい尾根や山頂に立てば、達成感がある。高山を目指すためのトレーニングにもなる。高校の部活で登山を始めた十代のころの気分を思い出したりもします。
そんなわけで、東京近郊の野山を歩き回っていたら『多摩・奥多摩ベストハイク30コース』(2021年、東京新聞)ができました。昨年は奥多摩に隣接する埼玉県西部の野山を歩いて、姉妹編の『奥武蔵・秩父ベストハイク30コース』(2023年、同)をこの春に出しました。
奥武蔵や秩父の山道をあちこち歩いていると、他の地域に比べて「道標」や「トイレ」が整っていることに気付き、地元の市や町が「ハイカーを呼び寄せる取り組み」を熱心に行っていることを知ったので、それを登山道法研究会の報告書第2集『めざそう、みんなの「山の道」』に書きました。このレポートは、その概略です。
奥武蔵・秩父地域は、大部分が埼玉県の自然公園に指定され、「関東ふれあいの道(首都圏自然歩道)」が縦断しています。長瀞の宝登山、皆野の美の山、高麗の日和田山のように、展望や花で人気の山もありますが、東京や埼玉の都市から近いわりにひなびていて、静かな山歩きを楽しめます。
特に秩父地域では「道標」と「公衆トイレ」がよく整備されています。道標は、江戸時代からの秩父札所めぐりの巡礼道の「道しるべ石」を立ててきた伝統を継承しているようで、ここに欲しいと思う分岐には必ずあります。34の札所ごとに清潔なトイレや快適な休憩所が設けられているのも安心。さらに札所以外の道中でも観光トイレを見かけます。
奥武蔵も慈光寺、桂木観音、高山不動尊、子ノ権現、竹寺と古刹が多く、黒山三滝や嵐山渓谷などの景勝地があるため、「道標」がよく整備され、「公衆トイレ」が、あちこちにあります。なかでも飯能市の名栗地区や小川町の仙元山の登山口のトイレはきれいです。
『めざそう、みんなの「山の道」』には「高山より低山の方が道に迷いやすい」と指摘している筆者が複数おられましたが、奥武蔵の山は全くその通り。林道、登山道、耕作地への道、山仕事の道、集落と集落を結ぶ道、登山者のショートカット、踏み跡などが交錯し、初めて歩く場所は地図で確認しながら進んでも不安で、「信頼できる道標」の存在は実にありがたいです。
奥武蔵・秩父の信頼できる道標や清潔なトイレからは、地元の方々が整備や清掃に尽力されている様子がうかがえます。それは昔から巡礼やハイカーを受け入れてきた歴史が培ったホスピタリティーの表れなのでしょう。素晴らしい地域性です。さらに感心するのは、この地域の市町村が、ハイキングコースの整備を住民の善意だけに委ねず、行政が主導して積極的に推進しようという意欲を持っていること。第2回では、行政の取り組みについて書きます。
しげのぶ ひでとし
1961年広島市生まれ。フリーランスのライター。広島県立国泰寺高校時代は山岳部、早稲田大学時代は探検部に所属。著書に『おすすめ! ソロキャンプ 関東・中部 厳選30』(東京新聞)、『50にして天命を知る 大人の御朱印』(同)など。
また、ここで紹介した地域を歩くためのガイドブックとして、
『多摩・奥多摩ベストハイク30コース』『奥武蔵・秩父ベストハイク30コース』(ともに東京新聞)なども著している。
【好評重版】多摩・奥多摩 ベストハイク30コース:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)
奥武蔵・秩父 ベストハイク30コース:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)
登山道法研究会では、この度、『めざそうみんなの「山の道」-私たちにできることは何か-』という報告書を刊行しました。頒布をご希望の方はこちらをご覧ください。
【連載】これでいいのか登山道 (yamanohi.net)
報告書の頒布は、以下のグーグルフォームからも簡単にお申込み頂けます。
報告書申し込みフォーム
先に刊行致しました「第1集報告書」は在庫がございませんが、ほぼ同内容のものが、山と渓谷社「ヤマケイ新書」として刊行されています。
ヤマケイ新書 これでいいのか登山道 現状と課題 | 山と溪谷社 (yamakei.co.jp)
また、このコーナーでも、全国各地で登山道整備に汗を流している方々のご寄稿なども掲載できればと思います。
この記事をご覧の皆さまで、登山道の課題に関心をお持ちの方々のご意見や投稿も募集しますので、ぜひご意見、ご感想をお寄せください。
送り先=gama331202@gmail.com 登山道法研究会広報担当、久保田まで
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