山の日レポート
通信員レポート「これでいいのか登山道」
【連載30】これでいいのか登山道
2025.02.17
この連載も30回目となりました。今回は登山道法研究会副代表の森孝順さんに、「冬木立の山の道はワンダーランド」として、この季節の山々を歩く楽しみと、山の道の恩恵について記していただきました。
本連載をお読みの皆様も、ぜひ、お住まいの地域や、出かけた山々で感じたことなどご寄稿くださいましたら幸いです(ご寄稿先メールアドレスは文末にあります)。
文・写真 森孝順(登山道法研究会副代表)
日常生活から薪や炭がなくなり、化石燃料に依存する社会となって久しくなりました。落葉の積もった冬木立の杣道を歩いていると、石積だけがきれいに残った炭焼き窯の跡に出会うことがあります。炭窯は水場が近くにあり、陽当たりの良い緩やかな斜面に築かれていることが多いようです。かつてこのような山奥で、炭焼き人はどのような暮らしをしていたのでしょうか。
近年、山村の過疎化が急激に進み、林業従事者は1955年の50万人から、2020年には4万4千人と約1割に減少しています。山で仕事をする人々が居なくなれば、自ずと山の道も荒廃していきます。人々が歩いてこその山の道です。日頃、恩恵を受けている山の道の維持管理に、私たちができることは何でしょうか。
炭焼き窯の跡、林業の衰退は山の道の維持管理に影響することに
日本列島は、大雪に見舞われて冬の真っただ中。雪国に暮らす人々にとっては、毎日、降りつもる雪との闘いとなります。東北地方のスキー場の近くで生活をしていた頃、軒先にはみ出した雪庇状の塊が、突然、全層雪崩のように落下、胸まで埋まってしまったことがあります。
雪の降らない都会に住む人々には、想像もできない厳しい生活ですが、雪国ならではの楽しみもあります。大地が真っ白い雪に被われると、少し緊張感をもって何処でも歩ける雪原が現れます。見通しのよい静けさに満ちた森の中で、普段の山の道を辿ることから解放された、非日常の世界を体験できます。野生動物のフィールドサインや、雪や氷の不思議な造形美などに出会えるのもこの限られた季節だけです。
新雪の明るいカラマツ林を辿ると不思議な出来事に遭遇することも
冬は野生動物の行動を観察できる機会に恵まれています。足跡や糞、食痕などにより、動物の姿が見られなくても、彼らの生活を想像することができます。昼間に野生動物に出会うことはめったにありませんが、雪の降りやんだ雪原には野生動物の生き生きとした痕跡が見られます。
一番分かりやすいのはウサギの足跡。横に並んでいる二つの足跡が後ろ足、縦の二つが前足です。木の枝をかじっているため、糞はコロコロした乾いた木屑のかたまりとなっています。キツネ、テン、リスの足跡もあり、野生動物たちが厳しい冬を耐えて暮らしている様子がうかがえます。
早朝の雪原の足跡、ウサギと交差している動物は何だろうか
真夜中に薄っすらと樹々に粉雪がつもった早朝、足元の草木が硬くて透明な氷に覆われた着氷現象にであいます。陽ざしを受けて気温が上昇するまでの僅かなひととき、はかない氷の造形美を楽しむことができます。
雨氷とは、零度以下でも凍っていない過冷却状態の雨滴が、地面の零度以下の物体に触れた衝撃で凍結する珍しい気象現象の一つで、着氷性の雨とも言われています。樹木、草本類のほか、道路や電線などの人工物にも氷が付着して、日常生活にもトラブルが発生することがあります。
木の枝に着氷したツララ状の雨氷
冬枯れの落葉樹林に囲まれた山道を辿ると、一日中陽の当らない北側の斜面に、白いハンカチを落としたように、氷の結晶が散乱している光景にであいます。別名、雪寄草と呼ばれているシモバシラの枯れた茎から浸みだした水が、冷え込んだ朝方に氷の花を作ります。
細い茎の根元に、何層もの美しいカール状の霜柱の出現に、自然の作り出した造形美と、それが植物の名前の由来であることに納得します。真冬の風物詩として、東京近郊の高尾山の歩道沿いでも観察できます。
シモバシラの枯れた茎にできる氷の花
登山道法研究会では、これまでに2冊の報告書を刊行しています。こちらは本サイトの電子ブックコーナーで、無料でお読み頂けます。
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ヤマケイ新書 これでいいのか登山道 現状と課題 | 山と溪谷社 (yamakei.co.jp)
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この記事をご覧の皆さまで、登山道の課題に関心をお持ちの方々のご意見や投稿も募集しますので、ぜひご意見、ご感想をお寄せください。
送り先=gama331202@gmail.com 登山道法研究会広報担当、久保田まで
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