山の日レポート
通信員レポート「これでいいのか登山道」
【連載34】これでいいのか登山道
2025.07.04
連載34回目の今回は登山道法研究会の森孝順さんに「標識から見える登山道の維持管理」というテーマでご執筆頂きました。ふだんから山を歩いていて接している様々な標識も、こうした視点から見ると新しい発見も多々ありますね。皆様もぜひ、山で見かけた標識について感じたこと等お聞かせください。また、登山道や標識に関することほか、お住まいの地域や出かけた山々で思ったことなどを、ご寄稿くださいましたら幸いです(ご寄稿先メールアドレスは文末にあります)。
文・写真 森 孝順(登山道法研究会副代表)
東北地方のブナ林に被われた山道を歩いていると、かつて道迷いを防ぐための道しるべとして、猟師や山菜採りなどの杣人により、ブナの樹皮に鉈で刻まれた古い目印に出会うことがあります。ブナは巨木になり木肌はスベスベしているので、鉈目(ナタメ)の道標はいつまでも消えずに残ります。
現在、私たち登山者を導いているのは、案内標識、指導標識、注意標識などがあり、山歩きに必要不可欠な情報提供が行われるようになりました。他方、標識類の乱立、老朽化した標識、デザインの不統一な標識など、改善すべき課題もあります。
道迷いを防ぐ黄色いペンキのマーキング、ピンクテープの取り付け、石積のケルンなども、個人で恣意的に実施するとしばしば問題になります。利用者の安全を確保するための標識類は、本来、登山道の管理者が責任を持って整備すべきです。しかしながら、普段、私たちが利用している登山道には、誰が整備し、誰が管理しているのか判然としない、管理者不在の山道が数多くあります。
ここでは、登山道に設置されている具体的な事例を取り上げ、標識類の抱える課題をいくつか紹介します。なお、以下の写真には現在撤去され、更新済みの事例も含まれています。
南アルプス最南部の盟主にふさわしい堂々とした聖岳の山頂標識
登山者が山頂に到着して、記念撮影の背景に使用され、最も印象に残る標識となっています。簡素な木柱タイプから、ヘリコプターで運搬された立派な石柱まで様々な標識があります。百名山名や標高が併記されている事例が多いですが、しばしば、公共で設置された山頂標識以外に、登山愛好者などが善意で設置したものが見受けられます。私的な標識の設置は、法的な根拠のない工作物となる可能性もあり、避けなければなりません。
分岐点で登山者を誘導するために、登山道の途中に設置されている標識。方向、距離、現在地などが記載され、登山者に安心感を与えてくれる標識です。矢羽根型が多いが、山域の特性に配慮した石柱タイプのものもあります。方向指示板、里程標などと呼ばれ、登山者に最も身近な標識です。
自然景観になじむ木材、石材などの自然素材の使用が望ましいが、耐久性や表現のしやすさから、プラスチックやアルミ板などの金属類の使用も増えています。一般に焦げ茶色に塗装した基板に、白文字の彫り込み方式が視認性に優れ、維持管理のしやすい標識として全国に普及しています。
登山者に事故防止、利用規制、自然環境保全などを伝達する注意・禁止標識。落石注意、滑落注意、クマ出没注意など多様な標識があります。登山者の安全確保のための立入禁止、植生保護のための立入禁止、野生動物への餌やり禁止などがあります。
特に、注意と禁止の標識は、外国人にも理解できるように絵文字のピクトグラムを併用して、多言語で情報提供するものが増えています。
山域の維持管理には様々な行政機関が関与し、それぞれが個別に情報提供を行なうため、登山道の入口付近に標識類の乱立が発生しやすくなっています。自然公園のルールとマナー、ゴミの持ち帰り、登山届の励行など、多種・多様な標識が設置されることになります。
この問題を解消するために妙高山の登山口には、各種の情報を一箇所に集約したゲート型の休憩施設が設けられています。新しいタイプの情報提供施設として、全国に普及することが期待されています。
国や地方自治体で整備された標識類は、公共の財産として登録されます。そのため老朽化しても用途廃止の手続きが行われずに、長期間にわたり存続する傾向があります。
老朽化した標識の残置は、新たに整備するまで撤去・回収するシステムが働かないことも、大きな要因となっています。近年、登山道の維持管理費への公共投資が減少している背景もあります。風致景観への影響だけでなく、遭難に直結する標識類もあり、適切な維持管理が求められます。
登山道法研究会では、これまでに2冊の報告書を刊行しています。こちらは本サイトの電子ブックコーナーで、無料でお読み頂けます。
https://yamanohi.net/ebooklist.php
また、第2集報告書『めざそう、みんなの「山の道」-私たちにできることは何か-』につきましては、紙の報告書をご希望の方に実費頒布しております。
ご希望の方は「これでいいのか登山道第2集入手希望」として、住所、氏名、電話番号を記載のうえ、郵便またはメールにてお申し込みください。
●申込先=〒123-0852 東京都足立区関原三丁目25-3 久保田賢次
●メール=gama331202@gmail.com
●頒布価格=実費1000円+送料(430円)
※振込先は報告書送付時にお知らせいたします。
報告書の頒布は、以下のグーグルフォームからも簡単にお申込み頂けます。
報告書申し込みフォーム
先に刊行致しました「第1集報告書」は在庫がございませんが、ほぼ同内容のものが、山と渓谷社「ヤマケイ新書」として刊行されています。
ヤマケイ新書 これでいいのか登山道 現状と課題 | 山と溪谷社 (yamakei.co.jp)
また、このコーナーでも、全国各地で登山道整備に汗を流している方々のご寄稿なども掲載できればと思います。
この記事をご覧の皆さまで、登山道の課題に関心をお持ちの方々のご意見や投稿も募集しますので、ぜひご意見、ご感想をお寄せください。
送り先=gama331202@gmail.com 登山道法研究会広報担当、久保田まで
RELATED
関連記事など