山の日レポート
通信員レポート「これでいいのか登山道」
【連載】これでいいのか登山道
2023.09.05
「登山道法研究会」の方々による連載も10回目となりました。あいう園美園浦和美園駅前保育園で保育士として働く戸谷彩さんの連載の最終回。今回は栃木県にある三毳山(みかもやま)での登山を通じて、どのようなチカラが育まれたかを紹介して頂きました。
文・写真提供 戸谷 彩さん(あいう園美園浦和美園駅前保育園・保育士)
自然の中で過ごすことで、たくさんの成長や気付きをして欲しい。身近な自然が減りつつあるからこそ・・・そんな思いから始まった三毳山登山。日々の生活の中で工夫しながら自然と関わり心と身体の発達を意識し、暮らしていますが、三毳山はスケールが違います。
毎年、小学校に上がる前の年長組の子どもたちはこの大きな山に挑みます。メディアやゲームなどの仮想空間に触れることの多い子どもたちにとって、指一本で思い通りになる世界とは全く違う世界。年に複数回登ることで自分の変化に気付いたり、自然と仲間と助け合う姿が見られたり、植物、動物、虫に心を動かされたり・・・三毳山は自然界で子どもたちが学ぶべきことがたくさん詰まっています。
保育園には様々な家庭環境で育つ子どもたちが一緒に暮らしています。子どもたちにとっては友だちの背景は関係ありません。今目の前にいる、毎日を一緒に過ごす大切な仲間。それだけです。
大きな山に挑むといった目標を一緒に達成しようとする中で、子どもたちの仲間意識はより一層大きくなっていきます。そしてTVの話はいずれ消えていきますが、三毳山に登ったこと、みんなでお弁当を食べたこと、イノシシ注意の看板を見て怖いと思ったこと、頂上からみんなでヤッホーと叫んだことは、繰り返し繰り返し会話の中に出てきます。
どんなに素晴らしい映画も、作り込まれたテーマパークも、流行のおもちゃも、そしてメディアも自然体験にはかないません。卒園して何年もたった園児が三毳山の話をするのはその証拠でしょう。
メディアの影響はもちろんゼロにはなりませんし、10年前に戻ることもできません。しかし、ある環境の中で工夫することで、変えられることはいくらでもあります。昔はよかった・・・今は時代が違うから・・・と諦めてしまったらそこで終わりです。
身近に自然環境が乏しいなら、できる範囲、自分たちで環境を作ろう。身近に自然がなければ自然の中に自分たちが出向けばいい。メディア中心の社会の中で子どもたちが変化していくならば、それを上塗りするくらいの体験をできればいい。子どもたちは限られた環境の中でも自分のしたいことを見つけ、いきいきと楽しんでいます。
自然体験は、子どもにたくさんの発見や気づきを与えてくれます。それは机の上でタブレット教材では決して身につかない力です。私たちの保育園では、日常生活の中に自然との触れ合いを取り入れながら、その集大成として三毳山登山を取り入れています。
三毳山ではたくさんの方に温かな優しい声掛けをいただきます。子どもたちはもちろんのこと、同行する私たちも三毳山に行くと元気をいただきます。自然環境にある三毳山も、誰も手入れをしなければ、また誰も気にかけなければ荒れ果ててしまいます。三毳山を大切に思う皆さんの気持ちが今の三毳山を作っているのだと思います。
この世に生まれてまだ6年しか経っていない年長組の子どもたちにそのことを理解するのは難しいことです。ただ、今すぐではなくともいつかこの自然で過ごした日を思い出し、山を大切に思い丁寧に自然と向き合い手入れをしてくれている方々がいるからこそ、今がある・・・と気付いてくれることを願っています。
(とや あや)
埼玉県さいたま市浦和区在住。1974年生まれ。3人の子どもを持つ母。市内の幼稚園に15年勤務。我が子の出産を機に、保育園で育つ子どもの力に魅力を感じ、保育園に転職し15年。自然の中でたくましく生きる草花、小動物、昆虫の緻密な作りや美しさに感動しながら、乳幼児と楽しい日々を過ごしている。
登山道法研究会では、この度、『めざそうみんなの「山の道」-私たちにできることは何か-』という報告書を刊行しました。頒布をご希望の方はこちらをご覧ください。
【連載】これでいいのか登山道 『めざそうみんなの「山の道」-私たちにできることは何か-』
また、このコーナーでも、全国各地で登山道整備に汗を流している方々のご寄稿なども掲載できればと思います。
この記事をご覧の皆さまで、登山道の課題に関心をお持ちの方々のご意見や投稿も募集しますので、ぜひご意見、ご感想をお寄せください。
送り先=gama331202@gmail.com 登山道法研究会広報担当、久保田まで
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