山の日レポート
通信員レポート「これでいいのか登山道」
【連載】これでいいのか登山道 子どもたちと自然~自然の中で育つ力~
2023.08.25
「登山道法研究会」の方々による連載も9回目です。前回に続き、あいう園美園浦和美園駅前保育園で保育士として働く戸谷彩さんのご寄稿の2回目です。今回は生活環境の変化を受けて、どういう工夫をなさっているかがテーマです。
文・写真提供 戸谷 彩さん(あいう園美園浦和美園駅前保育園・保育士)
環境の変化と同時期に急速に変化していったものがあります。それは子どもを取り巻く生活環境の変化です。
《メディアの普及》
身近な自然が減少し始めた時期とほぼ同時期に、世間では爆発的にタブレット端末やスマートホンが広がりを見せていました。そういったメディア機器は、私たちが思っていた以上のスピードで大人に広がり、そしてすぐに子どもたちに広がりました。そして本来大人が使うべき機器を小さな子どもが操作し操れるようになってしまいました。
この時期から、散歩に出てもテレビやYouTubeの話に夢中になる姿が出てきました。原っぱに出かけると「あそぶものがないから、つまんない」と言った声が出るようになりました。決まった遊具、決まったあそび方のあるものがないと、あそび方が分からない…といった姿が目立つようになりました。
《過激なアニメ・動画・ゲーム》
メディアが普及し、子どもたちの手の届く場所にある身近な存在になると、どうしても年齢に合っていない番組に触れる機会も増えてしまいます。大人と子どもの感じ方、物語の捉え方は違います。大人にとっては感動的なストーリーであっても、子どもたちにとっては残虐なシーンほど記憶に残ります。
そんな中で、「正義の味方」が「悪」とされる人物をたやすく傷つける、成敗という名の下で命を奪う行為は、子どもたちにとっては過激で刺激的でした。「好きではない」「気持ちが悪い」「毒がありそう」といった理由で虫を踏んだり、園で飼育しているカメを踏んでみたりする姿も見られました。
また実体験が減り、ザリガニ釣りや昆虫採集ではなく、ゲームの中でのモンスター採集に夢中な子どもも出てきました。指先ひとつで得られる満足感や達成感は、子どもたちの心の糧にはならない! ではどうしたらいいのか…10年前はごく当たり前に身近にあった自然環境が、年々変化していく中で、また子どもたちを取り巻く生活環境が変わりゆく中で、子どもたちが体験しながら育つべき力を育ち損ねてしまわないためには、どうしたらいいのか…身近に自然環境が乏しいなら、できる範囲、自分たちで環境を作ろう。身近に自然がなければ、自然の中に自分たちが出向けばいい。
メディア中心の社会の中で子どもたちが変化していくならば、それを上塗りするくらいの体験をできればいい。
《ザリガニ釣り》
用水路は埋め立てられ、道路になりました。残念ながら桑の木も一本残らず切り倒され、住宅地になりました。それでもザリガニがいるのではないか…と、散歩のたびに、小さく残った用水路を金網越しにのぞき込む子どもたち。残念ながらここにはヘドロしかありません。
近場でザリガニ釣りができるところを探し続けています。用水路がなくなって大変残念ではありますが、マイナスなことだけではありませんでした。子どもたちにとってはザリガニがいる場所を探す行為も楽しみのひとつとなりました。散歩をしながらザリガニのいそうな場所を探し回ります。また保護者からもザリガニスポットの情報をもらえることもあります。写真の場所は、保育士が探してきたザリガニスポット。残念ながらこの日は気温が低く、また先に釣りに来た人のエサ(イカ)が水中にたくさん落ちていて、1匹も釣れませんでした。子どもたちは釣れなかった理由を一生懸命考えて、リベンジを誓っていました。
《桑の木》
用水路に自生していた桑の木は全てなくなってしまいましたが、ドドメが大好きだった子どもたちの気持ちや、目的のために協力し合う姿を何とか残したい…と、当時植えた桑の木が大木に育ちました。木に登って採ったり、この下で待っている小さい子に採ってあげたりと、桑の木の周辺はいつも賑やかです。
卒園してもこの味やこの体験が忘れられず、遊びに来ると裸足で木に登り、ドドメをおいしそうに頬張っています。
《ひろば》
10年前はあちこちに原っぱがあり、つくしやヨモギ、ノビルがたくさん生えていました。草花遊びをしたり昆虫を採ったりと、子どもたちにとって最高のあそび場でした。そのほとんどが今は住宅地です。環境は変われど、子どもたちに公園ではない、原っぱの楽しさを味わってほしい…と年長組の保育士が子どもたちと一緒に草花を育て、保育園のひろばに植えてくれました。
草花は、あえて買ったような園芸種ではなく、世間一般では《雑草》と呼ばれる草を移植しました。保育園の中庭で大切に育てた《カタバミ》を、いよいよひろばに移植します。カタバミが傷つかないよう、慎重に植えつけています。「あかちゃんたちが、ひろばでたくさんあそべますように…」と。
《再生野菜栽培》
以前は野菜苗を購入し、培養土に植えて栽培していましたが、教え込むのではなく体験を通し子どもたちに持続可能な生活への入り口を感じ取って欲しい・・・と再生野菜栽培を始めました。
小松菜の根本、ねぎの根、豆苗の根っこなど、おいしくいただいた後本来は廃棄される部分を使い、野菜の収穫をしています。終わったら捨てる、いらなければ処分する・・・ではなく、工夫してみたらもう一度使えた、試してみたらできたといった体験からのSDGsの小さな一歩を意識しています。
(とや あや)
埼玉県さいたま市浦和区在住。1974年生まれ。3人の子どもを持つ母。市内の幼稚園に15年勤務。我が子の出産を機に、保育園で育つ子どもの力に魅力を感じ、保育園に転職し15年。自然の中でたくましく生きる草花、小動物、昆虫の緻密な作りや美しさに感動しながら、乳幼児と楽しい日々を過ごしている。
登山道法研究会では、この度、『めざそうみんなの「山の道」-私たちにできることは何か-』という報告書を刊行しました。頒布をご希望の方はこちらをご覧ください。
【連載】これでいいのか登山道 『めざそうみんなの「山の道」-私たちにできることは何か-』
また、このコーナーでも、全国各地で登山道整備に汗を流している方々のご寄稿なども掲載できればと思います。
この記事をご覧の皆さまで、登山道の課題に関心をお持ちの方々のご意見や投稿も募集しますので、ぜひご意見、ご感想をお寄せください。
送り先=gama331202@gmail.com 登山道法研究会広報担当、久保田まで
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