閉じる

ホーム

  •   
  •   

閉じる

山の日レポート

山の日レポート

通信員レポート「これでいいのか登山道」

【連載】これでいいのか登山道

2023.08.08

全国山の日協議会

よりよい山の道をめざして、私たちにできることは何だろうか?

「登山道法研究会」の連載も8回目です。これからは、先に紹介しました「報告書第2集」にお寄せ下さった方々のご意見も、順次取り上げてまいります。今回は、あいう園美園浦和美園駅前保育園で保育士として働く戸谷彩さんのご寄稿です。この7月21日の登山道法研究会でもお話頂き大変好評でした。

連載⑧ 子どもたちと自然~自然の中で育つ力~(1)

文・写真提供 戸谷 彩さん(あいう園美園浦和美園駅前保育園・保育士)

研究会での発表の様子(7月21日 写真=森孝順)

「子どもに寄り添う保育」「子ども主体の保育」

 私たちの保育園は、埼玉県さいたま市緑区にあります。開所から「子どもに寄り添う保育」「子ども主体の保育」を大切にしてきました。園の特徴としては、自然の中で子どもは育つ!という考えから、近隣の原っぱ、用水路、木登りのできる公園などを中心に、ふんだんに散歩を取り入れ、草木・小動物・虫たちと共に生き、自然界の力を借りながら保育をしてきました。
 緑豊かなさいたま市緑区地区でしたが、宅地化、それに伴う区画整理、公共施設の充実等により人が住むための整備が進み、それと比例して子どもたちが自然と関われる場所が減少していきました。私たち保育士は、環境の変化に伴う子どもたちの生活の変化、育ちの変化にどう対応するべきか考えるようになりました。

毎日のように用水路に通い詰めた

約10年前の園児の生活

保育園から徒歩5分の場所に、用水路がありました。その用水路にはたくさんのメダカ、ザリガニ、タニシなどがいて、毎年初夏~秋口は毎日のように用水路に通い詰めていました。子どもたちは年間を通じ同じ場所で遊び、育つことで、自分たちと同じように生き物の生活も四季により変わることに気付きました。ヒトが暑いと感じる日、時間帯はザリガニにとっても同じで、ザリガニも食欲がなくなります。大人は幼児期の経験や本などの知識からそのことを知っていますが、あえて子どもたちには教えず、実体験から気付けるようにし、自然との関わりからの学び、その先の工夫を大切にしていました。

用水路の柱にへばりついているザリガニをどうしても釣りたい子どもたち。そのためには身を乗り出さなければなりません。川を覗き込み、自分の安全を確認しながらズリズリと少しずつ前に進んでいきます。どこまで行ったら落ちるか、頭と体で考えながらの真剣勝負です。ここまでしても「絶対釣れる」「自分の思い描いたようになる」とならないのが、自然との関わりの素晴らしさです。 
 自分で釣ったザリガニを自分でつかみたい。でもどうしても怖くてできなかった子もいます。普段から慎重派の子で、どうしても手が出ません。何度も手を出したり引っ込めたり。そして何度もザリガニを落としたり…約30分格闘し、どこをどうつかめばいいかがわかり、自分でつかめました! 夕方迎えに来たお母さんに喜びの報告をしている彼の姿は今も忘れません。

川を覗き込み、自分の安全を確認しながらズリズリと

自然物との関わりは、泣く子も黙る…ほど魅力的

自然物との関わりは、泣く子も黙る…ほど魅力的です。喉が渇いたらお茶で水分補給ですが、子どもたちにとってはもっと魅力的な水分補給法があります。それは、用水路のほとりに自生している桑の木に実る「ドドメ」を食べることです。
桑の木は用水路の上に枝を垂れています。そしてまたなぜか、川の上ほど実がたくさん実っています。ドドメを手に入れるために子どもたちはどうするか…協力するんです。「ワッショイワッショイ」と枝を引っ張る子、手を伸ばしてみんなの実を採る子。目的のために力を合わせること、みんなで達成感を味わうことの喜びを知ります。
 ドドメは黒くなっているものが熟しておいしいです。赤い実は熟しておらず、酸っぱい! そして熟しすぎている物は、果物特有の発酵したようなかおりで、あまりおいしくありません。どれがおいしくて、どれがまずいか…はじめは食べてみなければ分かりません。手に入れたドドメを恐る恐る口に入れています。「おいしかった!」「すっぱかった!」「まずかった!」どんな情報も子どもたちは友だちと共有し、一緒に学んでいきます。

みんなで力を合わせてドドメの枝をひっぱる

生き物との向き合い方や、あるものの存在を理解

田んぼでのワンシーン。この田んぼにはたくさんのカエルがいます。「トウキョウダルマガエル」や「アマガエル」がたくさん跳び跳ねています。カエルの種類によって色や柄が違ったり、鳴き声が違うことを知り、子どもたちは夢中になって捕まえます。その中でカエルの足の繊細さに気付きます。捕まえたいから、欲しいからと力任せに捕まえると、カエルの足は簡単に折れてジャンプができなくなります。そうなると…生きてはいけません。それを狙ってたかのようにシラサギがやって来てカエルを食べます。自分たちの扱い方ひとつで目の前の生き物の生死が決まる…そんな実体験から、生き物との向き合い方や命あるものの存在を理解していきます。
 近くの林からたくさんの虫が園庭に遊びに来ます。ある朝、園庭で動かなくなっているカナブンを見つけました。水を飲ませようとしたり、葉っぱの上において見たりしましたが、動きませんでした。「どうして
しんじゃったんだろう」「いつだろう」「どうする?」。つけた子どもの周りに仲間が集まって話し合いをしていました。最後は園庭の片隅にお墓を作り埋めてあげていました。生き物の死を通し、「なぜ?」「どうして?」「どうしたら?」と考える力を養っています。

当時、自然の中で育っていた力

子どもたちの遊び・生活を考え、振り返ると、様々な力が自然の中で育っていたことがわかります。

・目の前にある自分の思い通りにならない物と向き合う力。その中で考え、試してみる。うまくいかなかったら別の方法を考える、再び試す。どうしても思い通りにならない時には自分なりに折り合いを着け、自分が納得できる答えを出すことの必要性。

・自分が発見したことや成功したこと、逆にうまくいかなかったことや危険だったことを仲間と共有し、個人だけではなく皆で達成感や満足感を味わう喜び。

・大人に教えられたり図鑑や書籍で知るのではなく、実体験を通し学び取ったことは、自分の糧となり自信に繋がること。

・自分より大きい物、小さい物、強い物、か弱い物の存在を知り、自分自身の立ち位置を知る。

・同じ環境の中で繰り返し取り組んでいく中で、自分自身の変化に気付きやすくなり、今までできなかったことができるようになることで自身の成長に気付く。

・命あるものの存在を知り、その命が自分たちの振る舞いにより消えてしまうこともあることを知る。その他にもたくさん!




(とや あや)
埼玉県さいたま市浦和区在住。1974年生まれ。3人の子どもを持つ母。市内の幼稚園に15年勤務。我が子の出産を機に、保育園で育つ子どもの力に魅力を感じ、保育園に転職し15年。自然の中でたくましく生きる草花、小動物、昆虫の緻密な作りや美しさに感動しながら、乳幼児と楽しい日々を過ごしている。

さまざまな力が自然の中で育っていた

***「登山道」に関するご意見や投稿を募集します***

登山道法研究会では、この度、『めざそうみんなの「山の道」-私たちにできることは何か-』という報告書を刊行しました。頒布をご希望の方はこちらをご覧ください。

【連載】これでいいのか登山道 『めざそうみんなの「山の道」-私たちにできることは何か-』

また、このコーナーでも、全国各地で登山道整備に汗を流している方々のご寄稿なども掲載できればと思います。 この記事をご覧の皆さまで、登山道の課題に関心をお持ちの方々のご意見や投稿も募集しますので、ぜひご意見、ご感想をお寄せください。 送り先=gama331202@gmail.com 登山道法研究会広報担当、久保田まで

RELATED

関連記事など