山の日レポート
通信員レポート
【連載】これでいいのか登山道
2023.07.28
「登山道法研究会」の方々による連載も7回目となりました。研究会に所属して活動なさっている方々に、それぞれの取り組みテーマや思いを語って頂きます。今回は早稲田大学探検部OBで、藪山の調査をしている荒川秀敏さんによる寄稿の2回目です。
文・写真提供 登山道法研究会 荒川 秀敏さん
伊藤新道は北アルプスの登山史を語る上で欠かせない存在です。それは三俣山荘の伊藤正一氏が私財を投げ打って開削した、黒部源流の雲の平への最短ルートだったからです。そして湯俣川の日本離れした渓谷美は、上高地の梓川に引けを取らないものがあります。
この廃道は御子息の伊藤圭氏の手によって、クラウドファンディングという手法等で資金を集め、復元を行っています。これは、一般登山道として復元したことではないことに、大きな意味があります。
要所要所には吊り橋等の設置を行っていますが、整備は必要最小限に留め、多くの部分は原始性を残しているのです。つまりルートファインディングが必要とされるバリエーションルートとして復元したものと言っても過言ではありません。
伊藤氏はヤマケイオンラインの中で、「一般登山道というよりは、バリエーションルートに近い冒険性を残した道としての復活となるが、専属ガイドを用意するなど、誰でも訪れられる可能性を残した仕組みを心がけている。」(注) と記述しています。この廃道の復元は画期的なものであり、今後の廃道復元の在り方に一石を投じたものと考えます。
富士山御中道は、江戸時代には存在している信仰の対象としての歴史的ルートです。富士講によれば、富士山の頂上を3回以上登った者のみが、この御中道をたどることを許されたものです。
この御中道の現在ですが、スバルライン五合目から御庭などの一部の区間は遊歩道として整備されたものの、大部分が廃道に近い状態です。その最大の原因は、大沢崩れにより分断されたためです。
御中道は、信仰の対象としてだけではなく、富士山の大自然を観察するのに格好のルートです。それは何よりも変化に富んだ展望です。大沢崩れのダイナミックな景観、南面の美しい樹林帯と相模湾の眺め、東面の荒々しい砂漠のような風景。富士山の多様性を知る上では欠かせない存在です。
最も復元してほしいところは富士宮口と大沢崩れの区間です。ちょうど森林限界を通るため、美しい樹林帯と時々望む頂上のドームまでの光景や相模湾の美しさ。しかし、この区間は御中道の中でも最も荒れ果てた区間に属するのが残念です。
以上のようなバリエーションルートの愛好者は、確実に存在するものと考えます。整備は最小限に留め原始性を残し、登山者のルートファインディングに委ねるという自己責任ルートとして存在すべきと考えます。
また、原始性を残すということは、ある面では自然に対する負荷を少なくし、環境保全の面でも優れているものと考えます。一般登山者であっても、ガイドを付けることや熟達者と同行することで、この魅力的なルートをトレースすることは可能であろうと思います。バリエーションルートが、自己責任ルートとして登山道法の適用内に組み込まれるべきと考えます。
(あらかわ ひでとし)早稲田大学探検部OB 日立製作所勤務の傍ら藪漕ぎや熱帯地方での沢登りの可能性を探求
(注)引用資料:ヤマケイオンライン「北アルプスの最深部・雲ノ平に続く伊藤新道復活に向けて」(2022.5.27)
https://www.yamakei-online.com/yama-ya/detail.php?id=1916
以降、研究会のメンバーによる連載に加えて、全国各地で登山道整備に汗を流している方々の寄稿なども掲載できればと思います。
この記事をご覧の皆さまで、登山道の課題に関心をお持ちの方々のご意見や投稿も募集しますので、ぜひご意見、ご感想をお寄せください。
送り先=gama331202@gmail.com 登山道法研究会広報担当、久保田まで
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