山の日レポート
通信員レポート「これでいいのか登山道」
【連載】これでいいのか登山道
2023.07.16
数年前から研究活動を続け法整備の必要性を説いている「登山道法研究会」の方々によるこの連載も6回目。これまでは、どうして登山道法が必要なのかについて綴って頂きましたが、今後は研究会に所属して活動されている方々に、それぞれの取り組みのテーマや思いを語って頂きます。先ずは荒川秀敏さん。早稲田大学探検部OBで主に藪山の調査などをなさっています。今回はバリエーションルートについて記して頂きました。
文・写真提供 登山道法研究会 荒川 秀敏さん
登山道は大きく分類すると遊歩道や登山道となり、さらに登山道は一般的な登山道とバリエーションルートに分類されます。ただし岩壁登攀や雪稜、雪壁登攀ルートは、山道の範疇から除外されます。今回は登山道のバリエーションルートについて考えてみます。
バリエーションルートといっても内容によりさらに3分割されます。1つ目は廃道です。廃道には歴史的価値を持つものが数多く存在し、その復元についても検討の余地があります。
2つ目は経験者(熟達者)向けルート、一般的には昭文社発行の「山と高原地図」などに、赤色の破線で示されたルートです。
3つ目は道のない山、道の不明瞭な山、踏み跡程度の山です。道がないのだから登山道の範囲外であるとの認識もありますが、ルートとして存在し、そこを縦走する登山者がいる限り、自己責任の登山道に含めるべきだと思います。
「山と高原地図」では黒色の破線で表示されることがあり「登山コースでない小道」と凡例に示されています。この3つの具体例を下記に示します。
【1 廃道】
・北アルプス 伊藤新道(伊藤圭氏の尽力によりバリエーションルートとして復元中)
・富士山 御中道(一部が遊歩道として整備されているが、大部分が廃道の状況)
・尾瀬 幻の大池(尾瀬口山荘の星信夫氏により開設されたが、山荘の閉館により廃道に)
・奥鬼怒 手白澤温泉―手白峠―湯沢噴泉塔(国の天然記念物)
【2 経験者(熟達者)向けルート】
・奥穂高岳―ジャンダルム―間ノ岳―西穂高岳の稜線
・剣岳 北方稜線
・飯豊連峰 石転ビ沢大雪渓
【3 道のない山、道の不明瞭な山、踏み跡程度の山】
・奥只見 未丈ケ岳―大鳥岳―毛猛山―六十里峠
・巻機山―檜倉山―ジャンクションピーク
・日高山脈 国境稜線(幌尻岳やペテガリ岳等周辺の明確な登山道のある部分を除く)
バリエーションルートは登山の原点です。登山の黎明期には川を遡り、尾根を辿り頂上に達したものです。『北の山』の著者、滝本幸夫氏はその本の中で「山に分け入る、といった感じが好きである。それは、つまり自然の奥深く融合してしまうことだ。人が絶えて模糊とした深奧の中に分け入っていく喜びは、さながらユートピアを求めて彷徨する狩人だ。」(注1)と記述しています。
こうした原始性に富んだルートも、次世代に受け継がれなければならないと考えます。
次回は廃道について、北アルプス黒部源流への歴史的ルートの復元である伊藤新道、歴史的価値を包含しているにもかかわらず廃道化が進んでいる富士山御中道を取り上げます。
(あらかわ ひでとし)早稲田大学探検部OB 日立製作所勤務の傍ら藪漕ぎや熱帯地方での沢登りの可能性を探求
(注1)『北の山:記録と案内』滝本幸夫(1983)岳書房
次回(第7回)も「バリエーションルートについて」の続編です。以降、研究会のメンバーによる連載に加えて、全国各地で登山道整備に汗を流している方々の寄稿なども掲載できればと思います。
この記事をご覧の皆さまで、登山道の課題に関心をお持ちの方々のご意見や投稿も募集しますので、ぜひご意見、ご感想をお寄せください。
送り先=gama331202@gmail.com
登山道法研究会広報担当、久保田まで
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