山の日レポート
通信員レポート「これでいいのか登山道」
【連載】これでいいのか登山道
2023.06.06
「登山道のために何ができるのか?」という、私たち山を愛する人たちにとっての課題について、数年前から研究活動を続け、法整備の必要性を説いている「登山道法研究会」の方々により4月から始まった新連載。
第3回目から「どうして登山道法の制定が必要なのか」について3回に渡って記して頂きます。
文・写真提供 登山道法研究会副代表 森 孝順さん
新型コロナウイルスの拡大により、深刻な影響を受けたのが、北アルプス南部地域における山小屋経営者である。宿泊人員の大幅な縮小のうえ、完全予約制の導入と宿泊料金の値上を余儀なくされた。
感染拡大にともない、山小屋の宿泊客の大幅な減少により、これまで山小屋が資材を提供し、従業員を派遣して登山道の維持管理を実施してきたが、継続することが困難になってきた。
山小屋の負担を軽減するために、上高地を中心に2021年9月下旬から1ヵ月の期間、官民で構成する「北アルプス登山道等維持管理連絡協議会」が受け入れ窓口となり、1口500円の寄付金を登山者から募る実証実験を行なった。この試みはその後も継続して、持続的可能な登山道の維持管理の仕組みについて検討を行なっています。
北アルプス一帯は、自然公園法により中部山岳国立公園に指定されており、登山道の整備・管理は、本来、環境省が主体的に取り組むことになっていますが、実態はこれまで山小屋が中心となり、維持管理されてきたことがコロナ禍で顕在化しました。
「登山道は誰が整備し、誰が管理しているのか」、この疑問から登山道法構想はスタートしています。自然公園法では、国立公園は環境省が、国定公園は都道府県が整備することになっていますが、環境省と都道府県で整備し、維持管理されている登山道は一部に過ぎない。
多くの登山道は、人が繰り返し歩くことにより、自然発生的に成立した山道であり、事実上、管理者が不明なままで、山小屋関係者の自助努力や地域の山岳団体などのボランティア活動により維持されてきた。
行政機関が登山道の管理者になると、整備・維持管理の費用がかかり、事故が発生した時、責任を問われるのではないかという不安が生じる点があります。一般に、欧米諸国では法律に基づき登山道の管理者が明確であり、公的資金が投入されて維持管理が実施されています。
大雪山国立公園では、官民協働の団体が組織され、「近自然工法」を採用して登山道の維持管理を行っています。また、飯豊朝日連峰では、全国からボランティアを募り、官民が協働して荒廃した登山道に対応しています。鳥取大山では、「一木一石運動」により、山頂の緑化復元に取り組んでいます。
このような国、地方自治体、山岳団体などで構成されるみんなで管理する「協働型管理運営体制」に基づく、登山道整備が全国に拡大しつつあります。管理責任、費用負担、ボランティアの受け入れなどに課題があります。
次回(第4回)は「どうして法整備が必要なのか」の続編となります。以降、研究会のメンバーによる連載に加えて、全国各地で登山道整備に汗を流している方々の寄稿なども掲載できればと思います。
この記事をご覧の皆さまで、登山道の課題に関心をお持ちの方々のご意見や投稿も募集しますので、ぜひご意見、ご感想をお寄せください。
送り先=gama331202@gmail.com 登山道法研究会広報担当、久保田まで
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