山の日レポート
通信員レポート「これでいいのか登山道」
【連載】これでいいのか登山道
2023.06.20
この4月から始まった新連載。「登山道のために何ができるのか?」という、私たち山を愛する人たちにとっての課題について、数年前から研究活動を続け、法整備の必要性を説いている「登山道法研究会」の方々が綴ります。第4回目は「どうして登山道法の制定が必要なのか」の続編です。
文・写真提供 登山道法研究会副代表 森 孝順さん
多くの国民が登山やハイキングを楽しんでいますが、その実態はよく分かっていません。登山道の利用状況、整備状況などの現状把握が先行しなければなりません。登山道法の制定は、山域で発生している様々な課題に取り組む契機となります。
登山道を維持管理するためには費用が発生します。それを誰が、どのように負担するのか、常に問題になります。公衆トイレの整備は公的資金で行われますが、その維持管理については、登山者の受益者負担として協力金が求められています。
入山料、協力金、寄付金などの受益者負担は、全国の山域で拡大しています。受益者負担の目的、効果、方法、透明性について調査を行い、登山道整備関連の財源確保の可能性について、登山道法制定の過程で検討を行う必要があります。
日本は国土の7割を山域が占める山国です。高山帯、森林地帯、山麓には、登山道、自然歩道、探勝歩道、遊歩道などがありますが、整備、維持管理の法的根拠があいまいのままに放置されてきました。
歴史的に見ても、軍事、交易、修験道、狩猟、山菜取り、渓流釣りなどにより、山域の山道は古くから利用されてきた経緯があります。
日常生活に必要な道路は、道路法により整備されており、山域への入山に必要な登山道(山の道)も法的な根拠のもとに、計画的に整備できないかとの議論が、山岳関係者の間で開始されたところです。
多くの人々が山の道を歩くことにより、人工林の荒廃、シカやイノシシの食害、過疎化などの身近な問題から、生物多様性や温暖化などの地球環境問題に関心を抱く契機となります。
登山道法構想に関して、整備費用の負担、施設の管理責任、整備のあり方、地権者との調整、利用者の自己責任、協力金やボランティア活動による受益者負担、ルールとマナーの遵守など、さまざまな課題があります。
登山道法制定の目的は、登山道の整備と維持管理を実施するにあたり、これまであいまいにされてきた国、地方公共団体、民間による役割分担を明確にし、利用者にも自己責任と応分の受益者負担を求め、将来に向けて安定した登山道(山の道)の利用を促進することにより、山村地域・山岳地域の振興と活性化に貢献することにあります。
特に、遭難救助、トイレの負担、安全登山などの公益的な役割を果たしている、民間の山小屋事業者への公的支援を制度化する必要があります。
登山道は登山者だけのものではありません。キャンプ、自然観察、山菜取り、渓流釣り、トレイルランニングなどの野外活動全般に幅広く利用されています。みんなが恵みをうける「山の道」です。今後、登山道を利用する側と、登山道を整備する側の双方から関心が高まり、よりよい登山道(山の道)をめざして議論の深まることが期待されます。
次回(第5回)も「どうして法整備が必要なのか」の続編です。以降、研究会のメンバーによる連載に加えて、全国各地で登山道整備に汗を流している方々の寄稿なども掲載できればと思います。
この記事をご覧の皆さまで、登山道の課題に関心をお持ちの方々のご意見や投稿も募集しますので、ぜひご意見、ご感想をお寄せください。
送り先=gama331202@gmail.com
登山道法研究会広報担当、久保田まで
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