山の日レポート
通信員レポート
中央アルプスでライチョウ復活作戦(中)
2022.05.27
山岳ジャーナリストとして活躍する近藤幸夫さんからの、前代未聞ともいえるライチョウ「繁殖個体群復活作戦」に関するレポートの第二弾です。
2020年、2年目を迎えた中央アルプスのライチョウ復活作戦は、動物園が協力することになりました。作戦スタートの前年は、乗鞍岳で野生のライチョウの卵を採取し、中央アルプスに移送して1羽だけいるメスに抱卵させました。2年目は、野生のライチョウの卵でなく、ライチョウを人工飼育している上野動物園や大町山岳博物館(長野県)など4施設から飼育個体のメスが産んだ卵8個を中央アルプスに運びました。動物園が協力することで、野生のライチョウの繁殖行動への負担がなくなるからです。
前年同様、卵の入れ替えは成功しました。しかし、ヒナが孵化直後にまたも全滅という最悪の結果になりました。原因はサルでした。巣の近くに備え付けたセンサーカメラの映像にサルが写っていました。孵化直後のヒナの鳴き声に興味を持ったサルが巣に近づき、覗き込んだのです。母鳥はパニック状態になって逃げだし、ヒナたちもちりぢりになって逃げ惑い、母鳥もとへ帰れなくなって寒さで凍え死んだのです。
2年目は飛来メスが産んだ無精卵と動物園からの有精卵の入れ替えのほか、もう一つの切り札がありました。乗鞍岳から複数のライチョウ家族をヘリコプターで移送して、中央アルプスで放鳥するというものです。永続的な繁殖個体群を確立するには、飛来メスのヒナたちだけでは数が少なすぎます。ある程度の集団が必要です。環境省は、乗鞍岳でケージ保護した3家族(母鳥3羽、ヒナ16羽)を移送する前代未聞の作戦を実施しました。
乗鞍岳から移送した3家族は、中央アルプスの自然に慣れさせるため、木枠と金網で作ったケージで1週間ほど保護しました。ヒナたちは自力で飛べるほど成長しました。放鳥後、ヒナたちが母鳥と一緒に行動していましたが、秋には無事に親離れして独立しました。2年目は、18羽のライチョウたちが生き延び、これで繁殖のための創始個体群が確立しました。
(つづく)
近藤 幸夫(こんどう・ゆきお)
1959年生まれ。信州大学農学部を卒業後86年、朝日新聞に入社。初任地の富山支局で山岳取材をスタートし、南極や北極、ヒマラヤなど海外取材を多数経験。2022年1月、退社してフリーランスに。長野市在住。日本山岳会、日本ヒマラヤ協会に所属。
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