山の日レポート
通信員レポート
中央アルプスでライチョウ復活作戦(上)
2022.05.21
朝日新聞社で山岳専門記者として活躍し、現在はフリーの山岳ジャーナリストとして山に関わる様々な分野での取材執筆活動にあたっている近藤幸夫さんから、ライチョウの復活作戦に関する貴重なレポートが届きました。上・中・下3回の連載で紹介します。
国の特別天然記念物・ライチョウは、本州中部の高山のみに生息する貴重な鳥です。約半世紀前に絶滅したとされる中央アルプスで現在、環境省が「復活作戦」を展開しています。取り組みが4年目となる今年、最終章を迎えました。動物園で繁殖させたライチョウのヒナたちを野生復帰させる試みです。成功すれば、世界でも珍しい、人の手により絶滅地域で繁殖個体群を復活させる快挙になります。
復活作戦のきっかけは1羽のメスでした。2018年夏、木曽駒ヶ岳で登山者がライチョウのメスを見つけ、写真撮影しました。環境省が調査したところ、近隣の乗鞍岳を含む北アルプス方面から飛来したことがわかりました。ライチョウは現在、北アルプス、乗鞍岳、御嶽山、南アルプス、火打山を含む頸城山塊の5山域に生息しています。1980年代、全国で約3千羽と推計された生息数は、2000年代になると2千羽以下に激減。レッドリストで絶滅危惧ⅠB類に指定されていて、絶滅の恐れが高まっています。リストのランクを下げるには、まず生息地を6山域に増やす必要があるのです。
環境省は、このメスの飛来を好機と考えました。翌2019年、乗鞍岳で採取した野生のライチョウの卵を運び、このメスに抱かせて孵化させる試みを実施。それまでこのメスは、オスがいないため無精卵を産んでいました。無精卵と乗鞍岳からの有精卵を入れ替えたところ、ヒナが5羽誕生しました。
しかし、残念ながら孵化を確認した1週間後、ヒナたちは全滅していました。ライチョウのヒナは孵化後約1ヶ月、自分で体温を調節できないため、定期的に母鳥のお腹にもぐり、温めてもらう必要があります。また、自分で飛べないため、オコジョや猛禽類などの天敵に襲われても逃げることができません。環境省は、「悪天候か天敵に襲われたと考えられる」との見解を示しました。ヒナは全滅しましたが、大きな収穫もありました。無精卵と有精卵を入れ替えても、母鳥が抱卵してヒナが孵化したことを実証できたからです。この技術は、今後の保護対策にも役立ちます。ヒナを失ったメスは、飛来メスと名付けられ、中央アルプスの復活作戦のシンボルになりました。
〈つづく〉
RELATED
関連記事など