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山の日レポート

山の日レポート

良くわかる今どきの山の科学

日本列島の成り立ちと古地磁気

2021.12.23

全国山の日協議会

元広島大学総合科学部准教授 佐藤高晴

元広島大学総合科学部准教授 佐藤高晴さんに「日本列島の成り立ちと古地磁気」につ いて綴っていただきました。ご専門外の方にはやや難解かも知れませんが、こうしたお話も含めて、「山」の世界の奥深さを感じるとともに、改めて知識欲もわいてきます(広報担当・久保田)

方位磁石のずれ

GPSアプリの利用が普及したことによって、方位磁石と地形図を頼りに山を歩くことは少ないかもしれませんが、方位磁石を利用する際に注意すべきことは、磁針が真北から少しずれた方向を指すことです。
図1において、ある場所での地球磁場の真北からのずれの角度Dは偏角と呼び、例えば真北から7度西に偏っている場合には「7°W」のように示します。また、水平面からの角度Iを伏角(下向きを正)と呼びます。
日本では、この偏角は北ほど大きな値を示し、現在は、沖縄で5°W、稚内で10°Wで、100年で2°程度西編が増大しています。

図1.ある場所での地磁気の偏角Dと伏角

古地磁気学

地球全体で地磁気を考えてみると、地球磁場は地球の中心にある大きな棒磁石の磁場(地磁気双極子磁場)として近似されます。その棒磁石の北極(地磁気北極a)は、一般に北極bからずれていますが、1万年程度の平均では北極と一致すると考えられています(図2)。
伏角が90°の北磁極cは非双極子磁場の影響で地磁気北極とは離れた場所にあります。真北を向いた地磁気双極子磁場は、赤道では水平方向を向き、北に行くに従って伏角Iが大きくなり北極では伏角は90°(真下)になります。
このような磁場の場合には、緯度をλ、その場所の伏角をIとすると、電磁気学により次の式で与えられる1対1の対応関係が成立していることが示されています。
     2 tan λ = tan I
もし、岩石が過去の真北を向いた地磁気双極子磁場を安定な残留磁化として記憶していると考えられる場合には、岩石の伏角Iを測定することによって、その当時の緯度(古緯度λ)を知ることが出来ます。
また、岩石の偏角Dからは、その当時の北極(南極)の方向を知ることが出来ます。
ある場所が過去にどのような緯度にあったかを調べる唯一の方法は、この古地磁気学の方法です。

図2.地磁気双極子磁場と地球の3つの極。   a地磁気北極 b北極 c北磁極

走磁性細菌

古地磁気学では、自然界にある磁性鉱物-磁鉄鉱(マグネタイト)や赤鉄鉱(ヘマタイト)などの磁石としての性質(残留磁化)を用います。
溶岩などが冷える際、磁鉄鉱では580℃、赤鉄鉱では675℃を下まわるとその場所での磁場の方向の磁化を獲得し、常温になってしまうと、その後の地磁気変動に影響されない安定な熱残留磁化を獲得する性質があります。
また、風化で花崗岩などの岩石中の磁性鉱物が粒子となった物が砂鉄です。火山灰中の磁性鉱物も堆積物中の磁性鉱物の起源の一つです。
しかし遠洋性堆積物で重要な役割をしているのは安定な残留磁化を持つ走磁性細菌起源の磁性鉱物粒子だということが私たちの研究で分かりました。
走磁性細菌は、池、河川、深海底など広く分布しています。
一般に観測される微好気性の走磁性細菌は、原子磁石が1方向に揃った単磁区構造と呼ばれる主に磁鉄鉱の粒径約0.07㎛の微小粒子を体内にチェーン状に析出します(図3、図4)。

図3.東広島の奥田大池堆積物から採取された走磁性細菌の透過電子顕微鏡写真。スケールは2㎛。

図4.西赤道太平洋の約4000mの海底から採取された深海底堆積物中の走磁性細菌起源と考えられる磁性鉱物粒子の透過電子顕微鏡写真。 (J. Geomag. Geoel. 1993, 45, 125-132, T. Sato, et. al

北半球の走磁性細菌は、磁力線に沿って北向きに泳ぐことにより効率よくその細菌に適した酸素濃度の堆積物まで到達するために、この磁石を使っています。
堆積物においては、堆積してきたこれらの磁性鉱物粒子が圧密・脱水などにより動けなくなり安定な堆積残留磁化が獲得されます。

図5.北半球の走磁性細菌

日本列島

古地磁気研究などにより、大陸移動が示され、プレートテクトニクスが実証されましたが、日本列島についても、西南日本の地層の縞状分布からは、フィリピン海プレートが北上し断続的に付加体が生成されたこと、日本列島が屈曲し日本海が開いたことが示されました。
秋吉台など西南日本に見られるカルスト台地については、海底火山の海面近くの頂上に形成された珊瑚礁が、赤道付近からやってきたことが示されています。
更に、丹沢、伊豆諸島が北上し本州に衝突し地層の屈曲を招いたことなどが示されました。

火山噴火予知研究

火山の噴火を予知するために、いろいろの方法が用いられており、この磁性鉱物の熱的性質も利用されています。
噴火直前にマグマが火道を上昇してくると周囲の岩石を加熱し熱残留磁化が消失します。
噴火の直前に、その火山の近くで地球磁場の変動が観測された例が報告されており、噴火予知研究に役立てられています。

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