山の日レポート
通信員レポート「これでいいのか登山道」
【連載29】これでいいのか登山道
2024.12.01
連載29回目の今回は、登山道法研究会副代表の森孝順さんに、季節の移ろいを楽しめる自然林の中を歩きたい ―人工林から広葉樹の山の道へ― と題して、様々な山の道の楽しみについてご寄稿頂きました。本連載をお読みの皆様も、ぜひ、お住まいの地域や、出かけた山々で感じたことなどご寄稿くださいましたら幸いです(ご寄稿先メールアドレスは文末にあります)。
文・写真 森孝順(登山道法研究会副代表)
私の好きな山は、雲取山から奥多摩駅に至る石尾根の中ほどにある鷹ノ巣山です。いくつもあるコースの中で、特に多摩川の支流の日原から、稲村岩のコルを経由して標高差1,100mを一気に登る稲村岩尾根コースが素晴らしい。落葉広葉樹林帯の急登を経て到着した山頂は、カヤトの草原が一面に広がり、眼下の奥多摩湖の先には、富士山の大パノラマが楽しめるとても見晴らしの良い山です。このコースは奥多摩三大急登の一つとして有名ですが、残念なことに現在、台風の被害を受けて利用できない状況です。
近年、学生時代から通いつめた東京近郊の山々は、山頂まで単調な暗いスギ、ヒノキのトンネルの中を、延々と歩く登山道が多くなりました。季節ごとに足元に咲き乱れる様々な植物の花に出会い、新緑、紅葉、落葉の四季の変化を体験できる機会が失われてきました。
登山の楽しみの一つは、高度をあげるにつれて、目の前に開けてくるパノラマです。苦労して到着した山頂から、富士山や東京湾などが眺望できる非日常的な体験が、繰り返し山に向かう原動力ともなります。
戦後、拡大造林政策によりブナなどの広葉樹林が伐採されて、スギ、ヒノキの人工林に転換したため、山岳景観も数十年の歳月を経て大きく変貌しています。人工林の成長にともない、山登りの楽しみである眺望が失われてきました。できれば、登山道沿いだけでも単調な人工林から、四季折々の変化が楽しめる自然林への転換ができないでしょうか。
朝起きて、ベランダから丹沢山塊の背後にそびえる富士山を眺めるのが日課です。今年の富士山の初冠雪は、平年より1ヶ月以上遅い11月上旬です。1894年の統計開始以来、最も遅い初冠雪となりました。秋の冷え込みも緩慢となり、いつもより紅葉もパッとしません。夏が長くなり、その分秋が短くなり、地球温暖化は確実に進んでいるようです。
それでも大陸からの寒気団の到来を、青空に連なるうろこ雲が知らせてくれます。柔らかい秋の日差しを浴びて、紅葉・黄葉を楽しめる快適な山歩きができるのもこの頃です。
山眠るころ、木々は厳しい冬を乗り越えるために、葉を落として春をジッと待ちます。落葉を踏みしめて歩く冬景色の山の道は見通しがよく、気持ちの良い登山の季節でもあります。しばしば梢に薄くつもった粉雪が季節風に飛ばされて、青空に舞い上がる光景に出会います。
落葉の吹きだまりで、穏やかな木漏れ日を浴びて、静かに深い天空を見上げるのにもいい季節です。冬木立の樹名は分かりにくいですが、枝の広がり方、木の肌、冬芽のつき方などで見当を付けることができます。冷たい空気に包まれ、明るい森の中を彷徨するだけで、何とも言えない、解放された気分となります。
春の明るい日差しのもと、野山をおおう雪が消えていくと、落葉樹林の林の下に、春の妖精が現れます。最初に大柄な山吹色の艶のある花を咲かせるのがフクジュソウ、その後、カタクリ、ニリンソウ、キクザキイチゲなどが次々と可憐な花を咲かせます。
これらの美しい花々は、春植物と呼ばれ、上空を被う木々が新芽を広げて日陰になる前に、太陽の光を求めて真っ先に花を咲かせ、早春の野山を彩ります。その短い花の命から、「春のはかないもの(Spring ephemeral)」と呼ばれています。春の新緑は浅黄、黄緑、薄紅とそれぞれの色合いを競い、いっせいに芽吹き、朝方見えた山の稜線が夕方には見えなくなります。山笑う季節の移ろいは、いつもせわしく賑やかです。
都会の喧騒と我慢できないほどの夏の暑さを逃れて、日光や箱根などの避暑地が賑わう季節です。登山者も涼を求めて、夏の山に向かうことが多くなりました。山の道で直射日光を避けて、谷から吹き上がる涼しい風にあたると、山登りの疲れも吹き飛びます。
周りの夏の草木は艶々として、緑の色も濃く陽の光を浴びて輝いています。ブナ、カツラ、トチノキなどの落葉広葉樹が、ほかの季節よりも生き生きとして、とても元気に見えます。山から湧きだす冷たい清水が、登山者への命の水となります。
登山道法研究会では、これまでに2冊の報告書を刊行しています。こちらは本サイトの電子ブックコーナーで、無料でお読み頂けます。
https://yamanohi.net/ebooklist.php
また、第2集報告書『めざそう、みんなの「山の道」-私たちにできることは何か-』につきましては、紙の報告書をご希望の方に実費頒布しております。
ご希望の方は「これでいいのか登山道第2集入手希望」として、住所、氏名、電話番号を記載のうえ、郵便またはメールにてお申し込みください。
●申込先=〒123-0852 東京都足立区関原三丁目25-3 久保田賢次
●メール=gama331202@gmail.com
●頒布価格=実費1000円+送料(430円)
※振込先は報告書送付時にお知らせいたします。
報告書の頒布は、以下のグーグルフォームからも簡単にお申込み頂けます。
報告書申し込みフォーム
先に刊行致しました「第1集報告書」は在庫がございませんが、ほぼ同内容のものが、山と渓谷社「ヤマケイ新書」として刊行されています。
ヤマケイ新書 これでいいのか登山道 現状と課題 | 山と溪谷社 (yamakei.co.jp)
また、このコーナーでも、全国各地で登山道整備に汗を流している方々のご寄稿なども掲載できればと思います。
この記事をご覧の皆さまで、登山道の課題に関心をお持ちの方々のご意見や投稿も募集しますので、ぜひご意見、ご感想をお寄せください。
送り先=gama331202@gmail.com 登山道法研究会広報担当、久保田まで
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