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山の日レポート

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通信員レポート「これでいいのか登山道」

【連載24】これでいいのか登山道

2024.07.15

全国山の日協議会

よりよい山の道をめざして、私たちにできることは何だろうか?

 連載24回目。前回に続き登山道法研究会副代表の森孝順さんに、ゴミの持ち帰り運動やクリーンハイクの普及、その具体的な成果について綴って頂きました。上高地や富士山で行われた美化清掃活動の詳細も、とても興味深い内容です。

連載24  登山道になぜゴミ箱を置かないのか ―ゴミの持ち帰り運動の大成果― (その2)

ゴミの持ち帰り運動とクリーンハイクの普及

 山岳地に散乱するゴミは、快適な利用環境を阻害するだけではなく、自然生態系にも影響を与えてきた。
 散乱ゴミを防ぐ効果的な対策は、ゴミを徹底的に拾い、捨てにくい雰囲気を醸成することが大切であるが、同時にゴミの持ち帰り運動やクリーンハイクなどの啓発活動を継続することが重要である。
 近年では一部山岳地において、過去に埋設されたゴミが露出したため、ゴミを掘り出しての搬出も開始されるようになった。

土壌の侵食により出現した過去に埋設処理されたゴミ、分解しにくいビン、缶、プラスチック類が露出している

上高地の美化清掃活動の歩み

 昭和36(1961)年、利用者の増大により、地元の旅館組合員及び厚生省の国立公園管理員(パークレンジャー)により、定期的なゴミ清掃が開始された。昭和38(1963)年からは、焼却炉、ゴミ籠、空き缶プレス機、ガラス破砕機の設置が行なわれた。また、美化清掃だけではなく、啓発も含めた広範な活動を推進するため「上高地を美しくする会」が結成された。
 昭和49(1974)年には、ゴミの持ち帰り運動の展開とともに、山岳地域のゴミ籠の撤去が始まった。登山者に配布されたゴミ袋には「美しい自然の思い出と共に、あなたのゴミはあなた自身の手で下界まで持ち帰ってください。やむを得ない時には山小屋のゴミ預かり所に預けてください」と表示し、山小屋の入口や登山口でゴミを回収することが開始された。
「上高地を美しくする会」は、関係する行政機関の他、ホテル、旅館、山小屋等が主要な会員となって活動している。
 現在、登山者はもちろん、一般観光客についても、ゴミの持ち帰りが徹底して、ペットボトル、空き缶などの目立つゴミの投棄は殆ど見られなくなった。このような散乱ゴミのない環境が生み出された背景には、上高地の関係者による長年にわたる地道な努力が挙げられる。

上高地の河童橋から明神池までのクリーンハイクにより回収されたゴミ、歩道沿いの散乱ゴミは極めて少ない

富士山の美化清掃活動の歩み

 昭和37(1962)年に、山梨・静岡両県により美化清掃問題に取り組む実行委員会が発足した。山梨県観光連盟が提唱した美化運動は「富士山をきれいにする会」の発足に繋がることになった。
 昭和54(1979)年に、環境庁、山梨県、静岡県が中心となり、地元の関係団体、自衛隊などの協力を得て、富士山クリーン作戦が実施された。2万4千人を超える人々が参加する一大イベントとなった。これは市民参加による一斉清掃の先駆けとなった。
 平成6(1994)年に、「富士山の世界遺産リストの登録に関する請願」が衆参両院において採択される。これを受けて、関係行政機関からなる富士山環境保全対策協議会が発足、美化清掃のみならず、し尿処理などの環境問題が取り上げられることになった。
 平成25(2013)年に、富士山が世界文化遺産に登録される。登録にあたりユネスコの諮問機関から、登山者数の管理や環境保全のあり方について、厳しい指摘を受けている。

富士吉田市の新倉山浅間公園、祝日「山の日」の制定を記念して山岳団体により実施された植樹祭。富士山麓では今でも「ゴミの不法投棄」の問題が継続している

 登山道沿いの散乱ゴミは、ゴミの持ち帰り運動により、比較的良好な環境が維持されているが、山麓における冷蔵庫、テレビ、車のタイヤなどの「ゴミの不法投棄」が、依然として深刻な問題として継続している。
 今年、富士山が世界文化遺産に登録されて10年が経過したが、観光振興を優先した過剰利用が継続し、外国人によるオーバーツーリズムも発生して、これまで環境保全を先送りにしてきたことが、あらためて注目されることになった。

かつて富士山頂に存在したゴミ捨て場の跡地。ゴミの持ち帰り運動の普及啓発により、山小屋のゴミも適切に搬出処理されようになった

高尾山に掲示されている「ゴミの持ち帰り運動」への取り組みの解説。散乱ゴミが減少したことへの謝意を表明している

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