山の日レポート
通信員レポート
リュウキュウイノシシ
2023.08.04
一昨年、昨年と、どんぐりが大豊作だったためか、例年よりイノシシが多く感じる。
今年は山の日を前に台風6号が猛威を奮っている最中だが、イタジイのどんぐりは風で振い落されるにはまだ小さいので被害が少ないと良いのだが。
イノシシといえば何年か前、車2台で林道を移動していたある日、カーブに差し掛かった箇所で、ふと先行車が停車した。
それは「山の日」記事をよく執筆されている比嘉正之さんの車両だったのだが、なんだろうと目を凝らしてみると、車道の真ん中に何やら塊が見える。茶色の硬そうな毛が、柔らかな森の日差しを受けて煌めいている。
どうやら、私達以前に通った車両がイノシシの成獣をはねたようだ。
気の毒という思いと、車事故に遭った動物は美味しくないから残念との考えが交錯する。
と、唐突に毛の塊が頭をもたげる。
そして比嘉さんの車をぼんやりと眺めた…
次の瞬間、すごい勢いで跳ね起きて左へ走り出し、落ち葉で滑って転びかけ、今度は右へ走って沢側の路肩へ飛び込んで消えた。
なんと信じがたいことに、彼女だか彼だかは、路上でぐっすりと昼寝をしていたのだった。
通りかかったのが私達でなければ本当に轢かれていたかもしれない。
ホッとするとともに、お日さまを受けてまどろむ幸せと、その後どんなにビックリしたことか、イノシシの心境を思うと可笑しくて堪らなかった。
また別のときには、やはり「山の日」に投稿している座間味さんと林道を歩いていたところ、路肩に親離れしたばかりの若いイノシシがいて、それを追い越したのだが、人間など眼中にないというふうに食物探しに没頭していた。
私達と同じ方向へ歩くので、しばらく一緒に散歩でもしているような感じになってしまった。
こんなふうに私にとってリュウキュウイノシシは会うたびに「のんびりしていて一生懸命で、少し抜けていて愛らしい」というイメージが深まる動物である。山中で遭遇しても、ほとんどの場合、向こうが慌てて逃げていく。
ただし、知人によると東海岸のある所では、集落内に出てきたイノシシに突進されて怪我をした女性がいたそうだ。何か理由があったかもしれないが、野生動物相手にはそういうこともあると念頭に置いたほうが良いのだろう。
またさらに、農作物をつくる人々にとっては大変厄介な存在でもある。イモなどを食べるだけでなく、ところ構わず土を掘り歩くので果樹の根などを痛めて枯らすこともあるそうだ。牙を研いで幹を痛めることもある。そこで果樹園等では畑の周囲に金網を設置して被害を防いでいる。金網など資材が用意できない時代からイノシシとの攻防は避けては通れないテーマだったようで、琉球石灰岩を積み上げた猪垣を万里の長城のように巡らせて集落で入念に管理していた。山中を歩くと今もその苦労の名残をあちこちに見ることができる。
アクセスが容易なところでは、大宜味村の塩屋富士登山道では「大宜味村の猪垣(ヤマシシガキ)」が村指定文化財として保存されており近くで観ることが可能だ。いつか機会があれば、イノシシが猪垣に遭遇してどう行動するのか観察してみたいものだ。
リュウキュウイノシシ:
南西諸島の一部に分布する。ニホンイノシシと比べると小さく、体重は20-50kg程度。
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