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山の日レポート

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通信員レポート

「日本の山々に導かれて」④ 沖縄の山、あれこれ

2023.08.01

全国山の日協議会

文:宗教研究家 小野文珖

宗教研究家、本会会員小野文珖さんに、日本の山々にまつわる伝承を3回にわたり語ってもらいました。
今回はシリーズ4回目で『沖縄の山』になります。
まもなく8月11日「山の日」。
第6回「山の日」全国大会は沖縄県で開催されます。

ド根性シークワーサ

 毎年、沖縄の知人から、シークワーサが一箱送られてくる。名護市勝山の山林の中で自然に実った果実だということだ。肥料も与えられず、人の手入れも一切なし。天然実生(みしょう)の小粒なこの子たちを、知人は「ド根性シークワーサ」と名づけて送ってくれる。
 焼酎に絞って、酸っぱさに顔をしかめながら十年前の沖縄の山を思いだす。
 知人の車で、本部(もとぶ)半島の本部町伊野波という小高い山の中腹に行った。知人がそこに石塔を立てたというので見にいったのだ。将来ここにお寺を建てたい、という希望を聞き、その「ド根性」に感心したものだ。
 知人が帰りに、この尾根続きが沖縄本島第二位の標高の山、八重岳(やえだけ)だと教えてくれた。日本で最も早く桜の開花が見られることで有名だという。桜の時期ではなかったが、八重岳の名は知っていたので、登ってみたいと伝えると、麓の方へ回れば、頂きの近くまで車で行けるという。せっかくだから山から沖縄の海を見たいと望むと、心よく求めに応じてくれた。晴れて気持ちの良い日だったのだ。

日本で一番早く桜が咲く八重岳

八重岳の戦跡

 与那覇岳に次ぐ、453.4メートルのカンヒザクラに包まれた美しい山だと聞いていたが、先のアジア太平洋戦争の激戦地となった山だと沖縄の紹介本にあった。複雑な気持ちで緑の景色を見ていると、登り口らしい道路の左側に、石碑が立っていた。止めてもらって見学した。
                  「三中学徒の碑」
 1945年3月、沖縄県立第三中学校内に、三中鉄血勤皇隊が結成され、4月、八重岳防衛線に配属された。4月13日、本部半島に上陸したアメリカ軍は、八重岳に籠る約三千人の日本軍に猛攻を加え、16日、山頂は米軍に占拠された。この戦いで、三中の生徒数十名が死亡したという。その慰霊碑であった。
 八重岳には、西側の谷に、野戦病院跡もある。敗走する部隊に重症患者を運んでいく余裕はない。歩けない患者には手榴弾が渡され、自決を迫ったという。当時看護に当たった女子学徒の証言が残っている。
 野戦病院跡の本部壕は辛いので見学は遠慮させてもらった。

 山頂下の公園で車を下り、20分ほど登って山頂に立つ。美ら海(ちゅらうみ)が眼前に。
 後に、この時の海を思い出して、東京新聞の「平和の俳句」に投稿した。
   海青し 乙女が誓う 水無月忌
 新聞に載ったのは、もう一つの句の方だった。
   雨しとど 沖縄慰霊の 枇杷供う
 麓から山頂までの約7000本の寒緋桜は、戦後、八重岳の悲劇を塗り替えようと、地元の人達によって植えられてきたと知った。鎮魂の緋桜なのであろう。

三中学徒の碑 提供:中京大学社会科学研究所戦争記念物アーカイブ     http://openweb.chukyo-u.ac.jp/~shaken_archive/20210327_1_1.html

ニライカナイ伝説

 沖縄慰霊の旅の縁で、琉球ミュージシャンの海勢頭豊(うみせどゆたか)氏と出会い、「ジュゴン保護キャンペーンセンター(SDCC)」の会員にもなった。氏は龍宮神ジュゴン信仰のルーツを解き明かし、『琉球文明の発見』という労作を世に問うた。日本の古代史をひっくり返すような問題提起である。その中で興味深かったのは、甲骨文字による検証で、「山」という象形文字が、ジュゴンとつながっているという指摘である。山は、サン・ザン・センと音読みされる。沖縄でジュゴンの呼び名がサン・ザン・センであった。海の信仰とばかり思っていたジュゴンが、山の信仰にも支えられていると言うのである。
 私なりに理解したところをまとめると、琉球では昔から海の彼方に理想郷「ニライカナイ」が存在すると信じられてきた。そのニライカナイこそ「龍宮城」ではないか。ジュゴンはその神の使い。琉球の祖神はアマミクという女神。アマミコとも呼ばれるらしい。「天御子」と書かれた説もあるという。天御子とは「日御子(ヒミコ)」のことである。中国の歴史書に載っているヒミコ(卑弥呼)の「ヤマト(邪馬台)国」は琉球であったと考えることの方が自然である。
 八重岳の頂上から美ら海を見つめながら、想像に羽がはえ、古代の琉球王国を飛翔し、ジュゴンに導かれて、ニライカナイに入ったところで、沖縄を二度と戦地にしてはならない、という神の叱責を聞いたような気がして白昼夢から目覚めたのである。

八重岳から美ら海を見る

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