山の日レポート
自然がライフワーク
【連載:西表島と私】 その10 危険な生き物 「西表島を目指す方々へ」
2022.08.15
西表島に特別に高いピークはない。しかしながら、幾つもの小さな尾根と沢が入り組んで地形を複雑にしている。しかも稜線部には2万5千分の1の地図でも表せない無数の起伏があり、他府県の山にはないツルアダン等のやっかいなツル植物やリュウキュウチクが尾根を塞いでいる。おまけに山道がない。森の中では眺望が利かないし、冬季を除けば、高温多湿で蒸し風呂に入っているようだ。むしろ、そういうことから来る精神的圧迫と疲労、暑さへの適応が西表島を難しい山にしているのではないだろうか。
筆頭はサキシマハブ。山麓部や耕作地周辺に多い。山中では、傾斜が緩く水の少ない沢にいる。サキシマハブは動きが緩慢なので、噛まれることはほとんどない。しかし、夜道や沢沿いの道では前を良く見て歩こう。スルスルと走り抜けるヘビはたいてい無毒の種類である。ハブは1ヵ所でじっとしていることが多い。被害に遭う部位は足ではなく、手や腕の場合が多い。たとえば植物採集や地表の昆虫やカエルを採集する時で、地元の人は畑仕事や墓掃除の際に被害に遭うことが多い。
万一、噛まれた時は、一刻も早く毒を抜き取ることが重要だ。ハブ毒は、人体に入っても数分から長くて10分くらいは不活性、つまり毒として作用しない。だから、この間に摘出してしまえば問題ないのである。救急用の吸引ポンプを持っていればベストである。それがない場合は、カミソリや針を使って噛まれた部分を傷つけ、口で吸い出すようにする。皮膚に傷をつけるだけで、切りすぎてはいけない。口内に傷があっても心配はない。あとは化膿止めを塗ると良い。そのうえで、必要と感じたら医者に診てもらおう。
ヤマビルは森林ではどこにでもいるし、雨天時は活発になる。ヒルは皮膚に食いついて血を吸う。たっぷり血を吸った後は自分から勝手に離れていく。出血も痛みもかゆみも残らない。しかし、吸血半ばではぎ取ると、出血が止まらなかったり、いつまでもかゆみが残ったりする。傷口を水で洗い流し消毒すること。ヒルは寄生虫や感染症をもっていないが、化膿やかゆみを引き起こさないようにするためだ。ヒルを防ぐ方法は、ヒルよけソックスを履くか、防虫スプレーを塗ること。ヒルよけソックスとは、つま先から膝までを覆う長い靴下で、木綿などの目の細かな布で自作する。
サソリやムカデは倒木や朽ち木、畑小屋の床下などに潜み、夜になると活動する。テント生活では、朝、外に干した洗濯物と、靴の中を必ず調べること。まれにムカデが潜り込んでいる。万一噛まれた場合、個人差はあるが、放置しても数時間から数日でなおる。腫れがひどい時は、抗ヒスタミン剤含有のステロイド軟膏を塗布し、水で湿布する。
意外と被害に遭いやすいのは、ハチやイラガの幼虫など毒をもった昆虫類である。スズメバチやアシナガバチは薮や地中に巣を作っている。前を注意して歩けば、被害に遭うことはない。刺された時は、サソリやムカデの場合と同様の対処をする。
ぜひ、西表島を訪ねて欲しい。ただ、気軽にトレッキングできるのは観光地になっているマリユドゥの滝とカンビレーの滝のみ。他は古見岳、テドウ山、横断山道にのみ踏み分け道がある。
それ以外は、ワンダーフォーゲル部や探検部による「探検」の世界だと心得てほしい。気楽に立ち入れるという場所ではない。
「ぜひ、山に入りたい」と思われることがあるかも知れない。その時は、十分な経験と技術を持った人の指導と同行を心がけてほしい。内陸部に関しては元々情報が少ないし、昔の山道は痕跡すらない。
山で危険な事は、滝の迂回の際の転落と沢での滑落だ。とくにこの事に留意しておこう。真冬でも凍死することはない。日が暮れたら野宿する覚悟を持つことが、西表島の山を歩くコツである。
2021年、西表島が世界自然遺産に登録された。それ以降、「山に入れなくなるのでは」と危惧する人が地元にもいる。規制、規制で森林を封鎖してしまうのではなく、多くの人が自然を享受できるような観察路や施設の整備と維持、入山に関するルール作り、旅人もそこに住む人たちも、心から喜べるような政策を進めて欲しい。
いつの世にも夢を持つ若者が生まれてくる。探検を志す彼らにとって、西表島が魅力ある秘境として存在し続けることを願っている。
以上で私の西表島との出会いに始まり、「島の自然と魅力」についての紹介を終わりたいと思います。この魅力あふれる先島諸島に是非脚を伸ばしてみて下さい。
( 完 )
RELATED
関連記事など