山の日レポート
通信員レポート
「山の日」第3回糸魚川世界ジオパーク「子ども登山教室」
2021.05.23
越後支部では「山の日」の記念事業として、糸魚川市の山域で「子ども登山教室」を実施している。
子ども登山教室は主に小学生を対象に「次世代を担う子どもたちに山の自然に親しむ教室を提供することで、子どもたちが豊かな自然の素晴らしさやその自然を守り育てていくことの大切さに気付くこと」を目的とし、平成29年の第1回から、参加した子どもたちの成長に合わせながら登山の標高を高めて、5カ年計画で展開している。
第3回目となる本年は、亜高山帯から高山帯での自然観察と本格的な夏山登山体験とし、蓮華温泉(1475m)から天狗の庭(2093m)を経て白馬大池(2380m)までの往復を実施した。
8月1日、糸魚川市根知・大神堂区公会堂にて、参加する子どもたちと保護者、桐生恒治実行委員長をはじめ運営スタッフを含めた32名が参加して事前学習会を実施した。学習会では総括リーダーである靏本(つるもと)修一自然保護委員長が、資料として作成した記録ノートを用意し、靏本氏よりスライドを上映しながら登山エリアである蓮華ジオサイトの魅力と登山コースの紹介。そして、コース上の自然観察ポイントが説明された。また、後藤正弘氏からは服装や持ち物、山のマナーや携帯トイレの使用、自然保護の注意点などを説明した。最後に、当日の班ごとに分かれ、自己紹介や情報交換で交流を図り仲間づくりを行った。
開催日前日の8月10日、運営スタッフが根知・岳修山荘に集い、当日の日程説明と役割分担、行動の注意点等の最終チェックを行った。特に安全確保の体制や緊急対応について重点的に協議した。
「山の日」の8月11日は、期待通りに絶好の登山日和となった。今回の参加者は子ども12名、保護者5名。運営スタッフは本部、各班のリーダーと支援、救護、応援支援の22名である。
子どもたちが蓮華温泉に到着し、すぐに靏本総括リーダーから運営スタッフに子どもたちの体調チェックやトイレへの誘導などの声が掛かる。子どもたちは全員元気な様子で硬い緊張感は感じられない。蓮華温泉ロッジ前の広場に全員が集合し開会式を行った。桐生実行委員長の挨拶の後、応援スタッフの糸魚川消防署の丸山優氏の紹介、準備運動、記念撮影を行う。
8時45分過ぎに、参加者は4班に分かれて出発した。第4班は低学年児童の班なので天狗の庭までの往復である。ダケカンバの繁る中をゆっくりと登り始める。シラカバとダケカンバの特徴の違いが判る子どももいて、事前学習会でしっかり学んできているようである。徐々に温泉の噴気地帯からの白煙が遠くになる。適時に休憩し熱中症の予防として水分の取り方に気を配る。登山コースの難所と思われた急斜面のトラバースもスムーズに通過し、最年少の1年生女子も元気に登っている。
11時頃には中間地点の天狗の庭に到着した。展望が開けて目の前に雪倉岳や朝日岳が大きくそびえる。子どもたちは初めて見る展望を写真に収めていた。登り始めは殆ど会話が無かった子どもたちも慣れてきたのかお喋りをするようになる。オオシラビソやコメツガの木々が香る中を順調に登り続ける。木々の香りで身体がリフレッシュするようである。スタッフが「いい香りだね。」と班の子どもたちに話しかける。ハイマツ帯になり、羽毛状になったチングルマが一面に広がる開けた場所に出た。班によって時間差はあったが、12時半を前後して全員が白馬大池に到着できた。
大池周辺は登山者で賑わい、山荘のキャンプサイトは色とりどりのテントが立ち並んでいた。子どもたちは周囲の賑わいの中で素早く昼食をとり、班ごとに記念写真を撮影して、散策を楽しむ時間も無く白馬大池を後にした。
子どもたちは積極的に花々の写真を撮るようになってきた。下山開始後はスタッフの前を先に歩くようになり、少し余裕が出てきた様である。すれ違う登山者との挨拶もしっかりと交わして、基本的なマナーを自発的に守るようになってきた。天狗の庭での休憩時には、ムシトリスミレの葉に手で触れて観察することができた。ここまでは疲れを見せなかった子どもたちも、その後の下山では足取りに乱れが出るようになった。子どもたちにとっては、初めての登山体験だから無理もないことである。子どもたちの様子を見ながら適宜、休憩をとり、スタッフがいたわる言葉を掛けながらゴールを目指す。出発から約7時間、心配された熱中症も高山病も無く、全員が無事に蓮華温泉に到着した。予定時刻を超えていたため慌ただしく着替えを済ませ閉会式となった。 小林勇副実行委員長の挨拶の後、参加者と運営スタッフがお互いにお礼の挨拶をして解散となった。
初めて2300mを超える本格的登山を体験した子どもたちの感想は一人一人様々であろうが、この登山教室の一日が夏休みの大きな思い出となり、自分の生まれ育った郷土の山の素晴らしさを感じ取ってくれたと思う。
次回第4回は蓮華温泉で一泊して経験を積み、最終第5回目は新潟県最高峰の小蓮華山(2766m)を目指す登山を予定している。私は、成長した子どもたちの笑顔を見ながら再び一緒に登りたいと願っている。
長い一日をよく頑張った子どもたち、一生懸命に付き添っていただいた保護者の皆様、糸魚川消防署の丸山氏、市民応援スタッフの小山加代氏、蓮華温泉ロッジの皆様、準備万端整え実行した運営スタッフの皆様に感謝を申し上げます。ありがとうございました。
この文章は著者である公益社団法人日本山岳会越後支部の知野勇人さんのご承認により、 日本山岳会会報「山」2019年9月号より転載させていただきました。
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