
山の日レポート
山の日インタビュー
「宙師(そらし)ラマ・ゲル・シェルパ 登山で培った技術で、いま信州の森を守る」3
2026.05.15
鹿野 「林業の仕事は、どんなふうにして始めたんですか」
ラマ・ゲル 「最初はアルバイトで、木の伐採をやってたんです。林業の仕事はここいらでも高齢化が進み、人手不足だったんでしょうね。私は登山の経験があって、最初から木の高いところに登って、枝を切ったりする作業ができたから、けっこう仕事が入ってくるようになった」
鹿野 「つまり、登山の技術が生きたっていうことですか」
ラマ・ゲル 「はい。木の枝おろしって、公園とか、遺跡とか、場所によってはクレーン車なんかが入れないところもあって、そこではツリークライミングっていうけど、体一つで登るしかない。また、そういう作業にはロープワークの技術が必須で、木の上で自分の安全を確保するのも、切った枝を下におろすのも、ロープやそのほかの機材をうまく使えないとできない。もちろん安全第一ですけど、恐怖心が強すぎてもだめだし。そういう意味で、登山の経験が生きるんですね。だから、最初から宙師としての適性があったのかもしれない」
鹿野 「たしかに。で、そこから独立して会社をおこすわけですね」

ローツェ南壁.jpg ラマ・ゲルさん提供
ラマ・ゲル 「はじめは、雇われて、指示されたとおりに仕事をしていたんだけど、そのうちに、自分ならここはこうするのになって思うことが多くなった。この木ならこんなふうにしたらいいのにとか、この木は切らずに残したいとか。もともと自然が好きだったから、そういう作業を、自分が提案したり企画したりするには、独立した方がいいなって。で、シェルパ林業という株式会社を作りました。2012年のことです」
鹿野 「なるほどね。でも、そこまでいくには、いろいろ越えないといけないハードルもあったはずだよね。会社を作るのもそうだけど、資格なんかも必要でしょう」
ラマ・ゲル 「ええ、だからいろんな講習をうけて、今は森林整備業務専門技術者っていう資格を持っています。資格とは違うけど、木だの草だのの名前をおぼえたり、これはいつ頃になるとどんな花が咲くか、葉が落ちるか、色が変わるかとかいったことも勉強するようになりました。そういうことがわかってくると、作業をするときでも、その木がいつごろになったらどうなるんだろう、まわりとの関係ではどう見えるようになるのか、そんなことも想像できるようになるし、そうすると発注した相手にもいろんな意見が言えるようになる。なにより仕事そのものが楽しくなりますよね。
まあ、いつでもうまくいくとは限りませんけど。この間も、木の下にヤマブキが生えていて、ほんとは除去するところなんだけど、でも別にあっても困らないし、春になって花が咲いたらきれいだからって残して置いたら、いっしょに作業していた業者さんが来て切っちゃった。私はそのとき木の上にいて、気がついたから、おおい、切るなっていったんだけど、間に合わなかった」
鹿野 「でも、すごいな。そういう勉強はどうやってしてきたの」
ラマ・ゲル 「本も読みましたけど、最近はけっこうネットでも調べられるし、先輩の業者さんに教えてもらうこともあります。こちらから聞けば、みんな親切に教えてくれる。日本の植生はネパールと似てるところもあるけど、ネパールでは全く見たことのないような種類も多いから、最初はたいへんだったけど、だいぶわかるようになってきた」
鹿野 「そういえば最近っていうか、今年は特にクマの出没が話題になったけれど、仕事にはクマを含めて野生動物のことも関係があるのかしら」
ラマ・ゲル 「そうですね。クマは、私が林業を始めてから15年くらいだから、昔のことはよく識らないけれど、けっこうよく見かけるようになりましたね。でも、特に問題が多いのはシカです。シカの食害はけっこう深刻です。カモシカは基本的に単独だけど、シカは群れをつくるでしょう。それが、例えば幼木を植林したばかりのところへ来て、樹皮を食い荒らすと、壊滅的な被害が出る。私たちの作業が全く無駄になってしまうこともあるわけです。ほかにもウサギやリス、ハクビシンなんかも、私がこの仕事を始めてからの間に、だいぶ増えたなって感じます。やっぱり過疎化、高齢化なんかの影響もありますよね」
(次回に続く)
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