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山の日レポート

山の日レポート

山の日を知ろう

萩原浩司氏が語る「山の日」制定の歴史    3.運動の拡大

2021.05.28

全国山の日協議会

「山の日」ネットワーク東京会議の開催

2012(平成24)年10月3日、「山の日」の制定に向けて大きな一歩となるイベントが、東京・代々木の国立オリンピック記念青少年総合センターで開催された。「山の日」制定協議会主催による「山の日」ネットワーク東京会議である。

それまで地方で独自に行なわれていた「山の日」運動の主催者たちを一堂に集め、それぞれの活動の内容を報告し合ってネットワーク化し、互いに学び合い、全国運動へと広げていこう、というのが企画趣旨である。しかし協議会メンバーは、この会議を単なる報告会にとどめておくつもりはなかった。ようやく実現した初の全国会議である。参加者全員が山の日に関する知識を深めるため、自然環境問題や山の恩恵について、専門家の話を聞くプログラムを組んだ。

そのうえで関係省庁、国会議員らに参加を呼びかけ、「山の日」制定への取り組みをアピールすることも会議の重要な目的と位置づけた。

「山の日」ネットワーク東京会議

「山の日」制定に向けたプログラム

会議には「山の日」に関わる環境、文部科学、林野、国道交通、観光といった関係省庁、地方自治体、環境保全団体、野外活動グループ、メディア関係者、そこに山岳5団体など合わせて100人余が参加した。

第1部は、各地で展開されている「山の日」運動の紹介で、山梨県、群馬県、広島県、松本市、栃木県から、それぞれの山の日に対する取り組みが報告された。民から官へのアプローチ手法や、次世代を育てるためのイベントの工夫など、地域の特色を生かした活動内容が披露され、新たに「山の日」制定運動に取り組もうとする自治体にとって参考になる情報が盛りだくさんの内容であった。

第2部はシンポジウム「山の自然環境保全」。環境省が取り組む山岳環境の諸問題や、日本の森林資源と環境保全などについて専門家の意見が述べられ、「山を知り楽しむことが環境保全に役立つ。その大きくて確かなきっかけとして山の日の制定を」との提唱があった。

第3部はシンポジウム「次世代につなぐ山」で、山小屋、教育現場、そして行政の取り組みについてそれぞれの立場から報告がなされた。山の日には「山の恵みに感謝するとともに、美しく豊かな自然を守り、次の世代に引き継ぐ」という意義がある。そのためにはどうしたらいいのか、識者たちの発言のなかには多くのヒントが込められていた。

たとえば登山の教育的効果について、文部科学省スポーツ・青少年局の藤原一成さんは、国立登山研修本部の資料をもとに次のような報告をされている。

山に登ることによって得られる教育的効果のひとつには「自然との触れ合いを通して、その雄大さ、厳しさや、地域の素晴らしさを味わうことができる」ということがある。つまり登山は自然に親しむ機会を得て自然の大切さに気づく環境教育につながるということだ。会議冒頭の講演で、東京学芸大学教授の小泉武栄さんが、日本には世界的にも特異で美しい自然があることを強調されたが、その価値に気づくきっかけとして、登山が有効な役割を果たすことは間違いない。

ふたつ目は、山に登ることによって「挑戦する心、粘り強く取り組む心を育て、達成感を得ることができる」ということ。一歩一歩の歩みが、いつかは必ず登頂という成果につながることを何度か体験すれば、精神的な成長、自己成長を促すことができるだろう。

そして3つ目は「人間関係」。グループ登山や山小屋生活では協調性が養われ、規律正しい行動を通して社会性を身につけることができる。さらに、体を動かすことの心地よさを味わいながら体力も養われる。

日本の豊かな自然を守り、次世代につなげるためにも、登山の教育的効果を実証しながら、山の親しむ環境を周りが用意していくことも重要であると説いた。

なお、会議の冒頭には作曲家で文化功労者の船村徹氏による特別講演「山は心のふるさと」があり、「山の日」運動を大いに元気づけるものとなった。

船村さんは2008年に地元・栃木の下野新聞に「山の日をつくろう」と題するメッセージを寄せていた。「山と川と海はつながっている。山と海は親友であり一体だ」と書き、「海の日」があるのに「山の日」がないのはおかしい、と祝日制定を訴えている。この明快なアピールは、日本山岳会が運動を始めたときのきっかけにもなっていた。船村さんの講演の内容は、海なし県に生まれた山への思いと、山と海との強い関係性について熱く語りかけるもので、出席者たちの共感を得ていた。

会議のなかで、「山の日」制定協議会は夏山シーズン前の6月第1日曜日を全国いっせいの「山の日」にしようと提案した。山々がみどりに輝く時期であり、心が山へと向かう季節。そして祝日と祝日との間隔がもっとも長く開き、祝日のない6月、ということが第1候補日としての推奨理由である。この提案は、盛大な拍手をもって出席者の賛同を得ることができた。

次のステージへ

「山の日」ネットワーク東京会議で得たものは大きかった。全国各地で展開されている「山の日」運動を総覧し、相互の強いパイプが出来たということ。そして各省庁や地方自治体の長、さらに「山の日」に関心を持つ国会議員とのつながりを持てたこと、など。これで「山の日」制定運動の基礎固めはある程度、整ったものと判断することができた。

しかしその先の展開を考えた場合、もともと登山愛好者の集まりである山岳5団体の運動には限界が見えていることにも協議会メンバーは気づいていた。

「山の日」は登山者だけのものではない。国民の祝日として制定するからには、すべての国民にその意義を理解してもらう必要がある。そのためには山と人の生活、歴史、文化などを関連付けた、より幅広い視点から山を考える啓発活動が必要になってくる。山岳に特化することのないスケールアップした国民運動として、より多くの人々を巻き込んでいかなければならない。

さらに、「山の日」を国民の祝日とするためには国会議員への積極的な働きかけが肝要となってくる。新たに祝日を作るには、法律(国民の祝日に関する法律)を改正しなければならず、党派を超えた幅広い国会議員の理解・協力なしにそれは成り立たないからだ。

次のステージに上がるためには、新たな組織づくりが必要である。山岳5団体は、「山の日」ネットワーク東京会議で得た人脈や組織とのつながりをもとに、次のステップへと踏み出した。

そして2013年、新たに生まれた組織が全国「山の日」制定協議会である。

萩原浩司(山の日アンバサダー)

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