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山の日レポート

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通信員レポート「これでいいのか登山道」

【連載】これでいいのか登山道

2024.03.22

全国山の日協議会

よりよい山の道をめざして、私たちにできることは何だろうか?

 登山道について考える連載。19回目の今回は、登山道法研究会副代表の森孝順さんに、国立公園内の歩道管理の現状調査(2023年12月に環境省のホームページ上で公開)に関して綴ってもらいました。

連載⑲ 国立公園内の歩道は誰が管理しているのか ―管理者不在が5割の調査結果―

文・写真  森 孝順(登山道法研究会副代表)

国立公園内の歩道(登山道・遊歩道)管理の現状調査

 登山道は誰が整備し、誰か管理しているのか。この疑問に応える端緒となる報告書が、2023年12月に環境省のホームページ上で公開されました。タイトルは「令和4年度 事業執行者不在登山道等における管理等現状把握業務報告書」である。本来計画どおりに整備されるべき歩道が、なぜ長年にわたり手付かずに放置されてきたのか、タイトルどおりに原因を正面から追究した報告書である。初の全国調査であり、山岳関係者から注目をされている内容となっている。

 調査では、全国34箇所の国立公園の各地に駐在する国立公園管理官(レンジャー)等を対象に、歩道の実質的な管理状況、緊急時の管理体制、管理者不在が継続している要因などについて聞き取りを行い、その結果を整理して公表している。レンジャーの取り組みの実情がよく分かる報告書となっている。

 この調査は管理者が設定されていない、すなわち管理者不在の歩道の現況把握を目的に行われたものである。今後、歩道の管理のあり方について検討を行なうため、歩道の管理状況のほか、登山者数のカウント、協力金制度、利用ルール、整備水準、グレーディング制度、遭難対策、裁判事例など幅広く情報収集を行っている。

 なお、調査対象の公園計画歩道は、国立公園内の山岳地の登山道の他に、観光地の遊歩道、海岸沿いの長距離自然歩道など、里地、里山の山道も含まれている。また、主要幹線歩道以外の枝道であるアプローチ歩道は含まれていない事例もあり、歩道の出入口が公園区域外にある場合は対象外となっている。

秩父多摩甲斐国立公園、公園計画路線であるが管理者不在の大菩薩峠に至る往還道。実質的な管理を都道府県や市町村が担っている割合が高い公園である。

管理者不在の歩道の存在が明らかに

 各国立公園の管理方針を定めた公園計画に記載された全ての計画歩道計1127路線を調査。その結果、全区間で管理者不在が50%の561路線、一部区間で管理者不在は261路線、管理実態不明が40路線となっている。全区間で管理者が存在しているのは24%の265路線となっている。
 管理者不在で荒廃が進行する登山道や災害発生時に迅速な対応ができないなど、多くの課題が指摘されている。管理者が不在のまま放置されてきた理由として、予算不足、管理体制の不備、管理責任への懸念、国有林との調整、煩雑な手続きなどが挙げられている。

主な国立公園の歩道の管理者設置状況

 中部山岳国立公園では72路線のうち、全区間で管理者が存在するのは12路線(16.7%)となっている。管理者不在の登山道が多いが、山小屋による実質的管理が行われている路線が多くあり、関係者で構成される登山道等維持連絡協議会が設置されている。特に、環境省のグリーンワーカー事業を活用して、現地の状況に応じた整備を行っている。

 秩父多摩甲斐国立公園では84路線のうち、全区間で管理者が存在するのは20路線(23.8%)となっている。管理者不在の路線が多いが、地方自治体により実質的管理が実施されている路線が多い。多摩川源流域は、東京都の水源林管理の巡視道が登山道として供用されている。

 富士箱根伊豆国立公園は首都圏の公園利用者が多い山域であるが、95路線のうち、全区間で管理者が存在するのは20路線(21.0%)となっている。天城山系や愛鷹連峰など、管理者の有無にかかわらず、登山道の荒廃が進行している山域がある。

 南アルプス国立公園は22路線のうち、全区間で管理者が存在するのは6路線(27.3%)となっている。北岳大樺沢の登山道のように、大雨による自然災害の影響を受けて、主要登山ルートが通行止めになっている路線も発生している。

 尾瀬国立公園は21路線のうち、全区間で管理者が存在するのは13路線(61.3%)となっている。管理者の確定している路線の割合が高い。環境省、地方自治体、土地所有者である東京電力により、木道や登山道整備が行われている。全般的に、歩道の管理状況が良く把握されている公園である。

 磐梯朝日国立公園は75路線のうち、全区間で管理者が存在するのは20路線(26.7%)となっている。管理者不在の路線が多いが、環境省、地方自治体、山岳団体などが参加する協議会により、協働管理運営方式のもと実質的な管理が実施されている山域である。

実質的に誰が歩道を管理しているのか

 1127路線について、実質的な管理者が存在するか否かについての回答結果により、全体では52%の路線で管理者の存在が把握されている。しかし回答が得られなかった路線も全体の45%にのぼる。

 管理者が確認された路線では、市町村と都道府県により約6割が実質的に管理されており、地方自治体の果たす役割が大きい。次に山岳団体などの非営利の民間団体となっている。環境省は山岳地の登山道よりも、観光客の入り交じる遊歩道、自然歩道などを多く管理しているものと想定され、約1割を占めている。関係者が参加する協働管理運営方式の協議会と山小屋関係者が実質的な管理者となっているのは、両方合わせて約1割となっている。その他には、林野庁、民間会社などが含まれている。

今後の取り組み

 自然公園法に基づき国立公園、国定公園、都道府県立自然公園が指定されており、その面積は国土の約15%となっている。今回調査対象となった国立公園は約6%の指定面積に過ぎない。国土の山域は7割を占め、その中にある歩道の管理実態は殆ど把握されていないのが現状である。

 環境省は今回の調査により、国立公園でありながら管理者不在の登山道が多数あること、山域により様々な取り組みが行われていることのほか、登山道の管理責任に関しては、公園計画での登山道と遊歩道の位置づけ、区分の明確化で対応する方針を打ち出している。

 環境省は、新たな管理者の設置と適切な整備を進めるとともに、管理体制については、地域の実情に即した多様なあり方を検討していく方向である。特に、公共的な役割を果たしている山小屋に対する支援を強化することとしている。

 今後、山域の自然環境保全と適正な利用を進めるための基本法や登山道法の制定について、登山道の恩恵を受ける利用者側と、整備・維持管理する行政側との間で、活発な議論が進むことを期待している。

中部山岳国立公園上高地、管理責任のある吊橋や木道が整備された観光客の入り交じる遊歩道。上高地一帯は、十分な安全管理が必要な領域とみなされる。

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