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みちのく高山植物誌(7) はまでうつくしい?
2023.08.01
みちのくの山野草探訪者「モウズイカ」さんからのレポート第7回です。
「はまでうつくしい?」をみて ? と思われるかと思いますが、本文中で説明があります。
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高山に咲く花は美しいものが多いのですが「どれが一番か」と問われるとはたと迷ってしまいます。
異論はあるかもしれませんが、
今回、個人的には、シオガマギクの仲間、ミヤマシオガマやヨツバシオガマを推したいと思います。
若かりし頃、初夏の月山で見たミヤマシオガマの花色マゼンタは鮮烈でした。
その色彩は眼だけでなく心(ハート)まで射貫くほどでした。
ところでシオガマギクの名の由来について触れておきます。
ご存じかもしれませんが、おさらいしてみましょう。
シオガマギクとは「塩竈菊」と書きます。
この植物は高山よりもやや低い高原や低山の日当たりの良い草地に生えます。
ウィキペディアによると、
塩竈とは、世阿弥の謡曲『松風』、後の歌舞伎・日本舞踊の演目『汐汲』において、
浜で海水を沸かして製塩するかまど、塩竈があり、
そこで「浜で(はまで)美しいのは塩竈」の言葉が出た。
それが「葉まで(はまで)美しいのは塩竈」と洒落て、
花も葉も美しい植物、シオガマギク(塩竈菊)になったという。
とありました。
いつの時代の話かわかりませんが、かなり強引な駄洒落です。
この植物、塩竈とはおよそ縁遠い高原や高山に咲く花なのに、
何故、その名に敢えて海のものを持って来たんでしょう。
花はともかくとして葉を見る限り、
一部の種類(例えばミヤマシオガマなど)を除けば、格別美しいとは思えません。
一方、学名の属名Pedicularisはどうでしょう。
手持ちのラテン語辞典で調べたところ、「Pediculum」とは「シラミ」の意味で、
ウィキペディアによると、この植物をシラミ駆除に用いたことに由来するとありました。
洋の東西を問わず、この植物の名の由来は変ですし、無理があるというのが、私の率直な感想です。
しかし、〇〇シオガマと名付けられている以上、不本意ながらも使わざるを得ません。
引き続き、高山に多いヨツバシオガマを列挙してみます。
この種類は、穂花が細長く、その下の茎葉も四枚ずつ輪生します。
ところで今回は全てヨツバシオガマとしましたが、
最近、東北地方北部のものはエゾヨツバシオガマといって別種だと聞きました。
更にヨツバシオガマの北限は月山とも聞きました。
下の写真は、月山のヨツバシオガマですが、他は全てエゾヨツバシオガマということになります。
見た目は変わりないですね。
両種の違いの詳細は、改訂新版・日本の野生植物(平凡社)などを参照ください。
冒頭で鮮烈なマゼンタと述べたミヤマシオガマですが、
この種類はヨツバシオガマと違い、葉が花茎にほとんど付きません。
根生葉がメインでニンジンのように細かく切れ込むので、これこそ「葉まで美しい」と思っています。
この種類は日本固有種で本州中北部と北海道ではごく限られた高山にだけ産します。
先のマップにも記してみましたが、
東北では月山や早池峰山、焼石岳など五ヶ所の山にしか無いようです。
前に葉の美しいミヤマシオガマについてふれましたが、下の写真は、ミヤマシオガマの白色品種です
最後に余談ですが、シオガマギクの仲間は
半寄生植物なので、庭で栽培維持することは不可能です。
一儲けしようと山で採取しても無意味、山盗り厳禁植物なのです。
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