山の日レポート
通信員レポート
国際雪形研究会による第28回雪形ウォッチング妙高はね馬大会報告
2023.05.05
会費も会則も名簿もホームページもなく,会員だと思えば会員になり,会員でないと思えば会員ではなくなる,限りなく緩い国際雪形研究会という研究会があります。
活動としては1995年から毎年1回,コロナ前までは日本中のどこかで1泊2日の雪形ウォッチングを開催しています。人づてに全国,場合によっては海外から集まった人が,初日の夜,発表時間一人5分間以内のミニシンポジウムで秘蔵の研究持ちネタを披露し,翌日,地元の詳しい会員の案内で,その地の雪形を眺めるという極めて単純なイベントです。必需品は遊び心だけです。
その第28回目が2023年4月22日11時~12時,新潟県妙高市はね馬公園駐車場で,オンラインではなくリアル開催されました。しかも,1泊2日ではなく,現地集合,現地解散のわずか1時間のみ。
主会場は妙高市を流れる矢代川に架かるはね馬大橋の脇にある20台ほどが駐車できる無料駐車場。お花見のころは,恐らく満車になって,大勢の人でにぎわっているのかもしれませんが,それ以外は車も人もほとんどいらっしゃらない静かなところです。その駐車場に,早い方は朝8時前から来ていて,開始30分前には10台ほどの車と,JR新井駅から徒歩でいらした参加者で怪しい集団となりました。
参加者は4歳から81歳までの老若男女28名。ちなみに81歳は,2月に誕生日を迎えられたお名前が八十一(やそいち)という教祖。教祖といっても宗教色もカルト色も一切ない空気のような方です。
北は札幌から高齢者期間限定乗り放題JR切符を使って数日かけてたどり着いた方,西は愛知県から早朝の電車でひとり心細くたどり着いた方まで,わずか1時間の大会のためだけにリアルにご参集くださいました。
どうでもいい情報ですが,北の方の姓と西の方の名は同じです。
ほぼ貸し切り状態となっている駐車場の一角にミッキーのレジャーシートが広げられ,その上には,参加者が思い思いに持ち寄った,プレゼント用の雪形Tシャツ,雪形絵葉書,はね馬はがき,お土産のお菓子,お菓子に見せかけたメモ帳などが広げられ,無料・もっていけ泥棒・フリーマーケット交換会状態となっていました。
人の多い街中ではこのような集団は迷惑なものでしょうが,ここでは全く問題はなし。
さて,はね馬はというと,前日は雲に隠れていた黒いお姿が,快晴の空を背景に文字通り神々しく,妙高神奈山の山腹に残雪に囲まれて現れておりました。
そして,11時になると同時に,満を持して教祖81による恒例の雪形ウォッチング開始を告げる雄叫びに合わせて,全員で恥ずかしげもなく「オー」を絶叫。参加者全員が立ったまま,機器としては1台の拡声器のみを持ち回りで使いながらの濃厚な1時間となりました。
初めに,地元上越地域在住の自称会員2名による2件の基調講演。続いて,これも恒例の次回雪形ウォッチング招致のための開催地プレゼン。そして一般講演となりました。招致プレゼンは,もうこれまで何度も何度も繰り返されていながら一度も実現していない,片道20万円はかかるであろう南米チリ大会と昨年オンラインで実施した山形県鳥海山大会の2件。一般講演の部は,絶滅危惧雪形「川の字」に関する学術研究から健康状態に関する近況報告まで,公序良俗に反しない程度で執り行われました。
ただし,通常リアル開催では恒例となっている,早朝サバメシ(アルミ缶と牛乳パックでご飯を炊き上げるサバイバル飯炊き)と真夜中の花火大会に代わる昼前のサバメシと真昼の花火大会はあいにくの冷たい強風のため,残念ながら中止とさせていただきました。
そして最後は,12時ちょうどに参加者全員によるエア双眼鏡のポーズの記念写真撮影で,あっという間の閉会となりました。その後は,それぞれ個別グループに分かれて朝まで分科会があったかもしれません。
今回の全国規模の楽術イベントは,会場は屋外無料施設,開催実質時間は1時間,収入支出ゼロ円の小規模イベントでしたが,そのわりに,かつて1泊2日で行っていたときと比べてやり切った感があまり変わらなく思いましたが,それはオンラインに慣れて,久々のリアルだったからかもしれませんし,リアル雪形と遊び心だけあれば、時間の長さは関係ないのかもしれません。
理学博士 納口恭明 (のうぐち やすあき)
つくば科学教育マイスター
1953年北海道出身。
1981年北海道大学大学院理学研究科地球物理学専攻博士後期課程修了、理学博士。
元防災科学技術研究所総括主任研究員。
ピンポン球数十万個を使った模擬雪崩実験など、雪と氷の災害を研究するかたわら、雪崩現象「ナダレンジャー」、液状化現象「エッキー」、共振現象「ゆらゆら」、対流現象「タイリュウジャー」などを開発し、自らは「 Dr.ナダレンジャー」に変身して、乳幼児から専門家までを対象にした自然災害の科学教育活動を実施。全国各地の科学館、学校(幼稚園~大学院)、ショッピングセンターなど、人の集まるところを回って、実験教室を行っている。
主な受賞歴
2007年3月 平成基礎科学財団による第3回小柴昌俊科学教育賞奨励賞
2009年8月 キッズデザイン協議会による第3回キッズデザイン賞審査委員長特別賞
2012年4月 科学技術分野の文部科学大臣賞
2013年9月 日本雪氷学会による雪氷功績賞
2015年7月 つくば科学教育マイスター第1号認定
2019年1月 国土交通省 平成30年度雪崩災害防止功労者表彰
2023年5月 日本雪氷学会関東以西支部による活動賞 以上
RELATED
関連記事など