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山の日レポート

山の日レポート

山の日インタビュー

ソロキャンプの真の魅力

2022.05.01

全国山の日協議会

重信秀年さん(山歩きと歴史のライター)

【山の日インタビュー】 この人に聞く「山」の魅力-その3 

「野山で火を焚き、食べ、眠り、自然と自由と人生を楽しむ」。感染禍で密を避けられることもあってか、そんなキャンプがブームになっており、ガイドブックや入門書も数多く刊行されている。そんななか、文化的な側面からキャンプの奥深さに触れた本に出会った。長年に渡って登山や旅やキャンプを続けて来た著者の重信秀年さんに、改めてその魅力を語ってもらった。

30代の時、妻と世界を周遊した。シリアにて(撮影=重信三和子)

ゆったりして、ちょっと立ち止まって

*今、キャンプが、しかもソロキャンプがブームと言われています。今回、重信さんが出された本は、まさにタイムリーですが、それに加えて随所にいい言葉が散りばめられていることを感じました。この本が出版された経緯を教えてください。

はい、最近は、多摩のハイキングの本、御朱印の本と続けて刊行してきましたが、それを見てくれていた東京新聞の人から、「次はキャンプの本を出しましょうよ」とお誘いを受けたんです。もちろん、キャンプブームという背景のなかで、売れそうな企画という意図もあったとは思いますが。
こうした本を作るには、各地のキャンプ場を実際に訪れ、雰囲気を体験して写真も撮ってと、取材から刊行まで短くても1年はかかります。春から取材を始めて、次の年の春に出すというスケジュールですね。せっかく出かけても天候によっては再取材も必要ですし、コロナ禍で紹介できないところもありました。
ありがたかったのは、内容も企画も、紹介するキャンプ場選びも、全部まかせてもらえたことです。内容も自由に書かせてもらいました。単なるキャンプの本なら、べつに私が作らなくてもいいと思ったのですが「中高年向きでいきましょう」ということでしたので引き受けさせてもらいました。ファミリー向けでなく、グループでもなくソロや小人数で出かける方たち向けです。大人がひとりで、自然のなかで自身を振り返って考える。いや、何も考えなくてもいいかも知れませんね。「ゆったりして、ちょっと立ち止まって。考えてみませんか」。こんなメッセージをこめました。

つくばふれあいの里キャンプ場にて(撮影=重信祥太)

取材を通じて家族とのつながりも実感できました

*関東・中部地方に限定とはいえ、30か所ものキャンプ場を取材するのは色々大変だったと思います。経験の長い重信さんでも、新鮮に感じたことなどもあると思いますが、いかがでしょうか。また、私自身は、重信さんがまえ書きやあとがきに書かれている言葉、文学や山岳書からの引用がとても印象に残り、「ああ。こうした深いところを伝えてくれる本はいいなあ」と、しみじみ感じました。

はい、春から秋までたっぷり取材して、冬の間は落ち着いて原稿を書くという段取りを組みました。しかし、3ヵ月で160ページを書き終えるのはやはり大変でした。プロローグやエピローグのページもあるのですが、そうした部分が時間もなくなってしまい1日で書きあげました。そうすると、これまでに自分が、読んだり、見たり、聞いたり、教わったりしたこと、本から学んだり、そらんじている好きな言葉が、自然に思い浮かんでくるのです。
撮影時には家族で出かけてモデルになってもらったことも多かったのです。久しぶりに家族で訪れた立山や涸沢では、稜線を眺めながら「この風景を見られただけでいい」としみじみと感じましたし、そうした懐かしい気持ちにもなれました。

取材で久しぶりに訪れた小梨平キャンプ場

高校時代の部活が教えてくれた自然の素晴らしさ

*重信さんのプロフィールを拝見すると、高校の国語教師もなさっていますよね。本の中に高校時代の初めてのキャンプの感動も綴られています。この辺りも少し詳しくお聞かせください。

はい、中学では陸上部でしたが、2年生のとき脚を折ってしまいました。ギブス生活で「完治するまで走らないほうがいいよ」と、お医者さんに言われてしまいました。それに遠い所を旅してみたいと思うようになったので、高校のクラブ活動では山岳部を選びました。私が育った中国地方にはあまり高い山はないのですが、最初の山行で西中国山地の十方山に出かけた2泊3日の山行は思い出に残っています。なだらかな尾根伝いの笹原が続き、湧き水があるところにテントを張って泊まりましたが、山々がまるで海みたいに見えて、「ああこういう所があるんだ」と感動しました。開放感というか、自由な雰囲気に魅了されました。山登りが好きになったのは、この時の体験が大きいと思います。

早稲田大学探検部の仲間たちと

伝えたいと思う言葉が自然に湧いて来ました

*プロローグから宮沢賢治の「注文の多い料理店」の中の言葉や、日本の登山の草分けの田部重治の「山に登るということは、山に寝ることだ」といった言葉が出て来たりと、「これは単なるガイドブックではないぞ」と読み入りました。

高校時代に登山と出会い大学では探検部でしたが、文学もずっと好きでした。古典が好き。和歌も万葉集も。それで、大学を出てから高校の国語教師をしていた時期もありました。今回の本では少し近代文学を意識して書きました。昔読んだものを思いだしながら綴りましたが、そうした部分に共感してくれる人も多いです。特に知識や何かを伝えたいと思っているわけではないのですが、書こうと思うと自然にそうした内容が出て来ます。ひっかかって思いだすと言いますか、連想ですね。
キャンプの楽しみもそうだと思います。構えなくても色々なことと出会えますし、やりたいことをすればいい。あるいは何もやらなくてもいい。この自由さが魅力ですよね。最近、奥多摩の川井キャンプ場に出かけたんですが。カップルやソロテントの人たちが、川を眺めながら静かに焚火の炎を見つめている姿を見て、いいなあと思いました。独りでもいいし、家族や仲間とでもいい、川が流れて、山々が見えて、そんなところで過ごす時間を大切にして欲しいですね。

卒業後、広島に戻って国語教師となった頃

聞き手=久保田賢次(全国山の日協議会 広報担当)

(しげのぶ ひでとし)
1961年広島市生まれ。山歩きと歴史のライター。早稲田大学時代は探検部に所属。高校の国語教師、広告の制作会社などを経てフリーライターに。著書に『多摩・奥多摩ベストハイク30コース』(東京新聞)『50にして天命を知る 大人の御朱印』(同)、『「江戸名所図会」でたずねる多摩』(けやき出版)、共著に『これでいいのか登山道 現状と課題』(山と渓谷社)など。

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