山の日レポート
日本山岳会『山』より
山と付き合うために私たちに求められていること
2022.01.01
今月は当会会員で北海道大学教授、公益社団法人日本山岳会北海道支部の渡辺悌二さんに綴っていただきました。
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2016年7月の「山」で,山岳団体に所属する私たちがどのように「山の日」と関わっていくべきかについて述べる機会をいただいた。そこでは,次世代へのバトンタッチを進めていくために「山の日」を活用すべきだと書いた。
それから5年が経ったいま,私たちが「山の日」とどのように付き合うべきなのか,また,「山の日」を迎えるにあたって日頃から何をすべきなのか,もう一度考えてみたい。
広大な山域をホームグランドにしている北海道支部では,必ずしも「山の日」を強く意識しているわけではない。しかし,いくつかの山域で地元自治体や自然保護関連の団体と協力関係が作られていて,その活動の中には「山の日」のイベントへの参加も含まれている。例えば環境省と地元1市9町を中心とした大雪山国立公園連絡協議会が「山の日」に実施している,登山道補修作業の荷揚げへの参加などである。
こうしたイベントを通して知り得たことに,一定数の若者が山に関わりたいと思っているということがある。しかし同時に,これらの若者たちのほとんどが,どのようにしたら山と関わることができるようになるのか,具体的な方法を知らずにいることもわかった。求めている側と求められている側とに,明らかにミスマッチが生じている。
困難な登攀を目指す者から,登山道や野営場の維持管理,生態系の保護・保全に関わる者,健康維持のために山を目指す者まで,どんな理由であっても,若者が山に入る機会を提供することは,私たちに求められている重要な責務であろう。この際,日本山岳会の会員が各地でさまざまな試みを行っていて,若者たちの山との関わりが少しずつ増えてきている。しかし,その増加速度はいまだに極めて遅いと言わざるをえない。
何故,若者の参入がうまく進まないのであろうか?多くの若者は組織に所属することで自由度を失うことを好まない。こうした人たちをどう取り込むと良いのであろうか?組織の中で活動してきた私たち高齢者は,若者とどのように付き合うべきであろうか?そのためには私たちに柔軟性が求められている。豊富な経験と知識がじゃまになることもあるだろう。若者をいきなり組織の会員にさせるのではなく,若者とはSNSなどで緩く繋がることで,山への「入り口」に誘うのがよいのかもしれない。
若者の参入がうまくいっているケースも散見される。例えば,林業界には林業女子と呼ばれる女性が入っていて,若年齢層が活躍をしている。ここでもインターネットを使った情報提供が盛んで,都会に住む女性を主たるターゲットにして,インターネットなどの駆使によって森や樹木にふれあえる「入り口」を提供している。
北海道は,少子高齢化の影響で,社会の維持が日本の中でも最も困難になる地域の一つになると予測されている。北海道の広大な山域と付き合ってゆくには,若者の山への参入を進めるなお一層の努力が不可欠となる。
北海道では日高山脈が国定公園から国立公園に格上げされようとしている。高度な登山技術を持つ人がこれまで同様に高所の山域の利用をし続け,一方で,低所には新たに若者のために雇用の場を設けたり,国立公園化によるパートナーシップで若者がさまざまな活動に参加できる場を増やしたりすると良いであろう。全国の大学生にも働きかけると良い。それも山岳部をターゲットにするのではなく,広く多くの学生に声をかけるべきだろう。こうしたさまざまな活動が「山の日」を核に進められることが期待される。
「山の日」は山と付き合う日ではあるが,将来に向けて「山の日」を意味のある日とするためには,日頃から若者を中心とした多様な人たちと付き合うことが,私たち年寄りに求められている。楽しく,緩やかで,柔軟性の高い方法で。
(北海道大学・教授)
(日本山岳会「山」2021年9月号より転載。)
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