山の日レポート
通信員レポート
【福井県】部子山(へこさん)ブナ林の野鳥
2025.05.14
鳥たちが美しくさえずり、新緑の気持ちいい季節となりました。こんな時期は野鳥と新緑を楽しみに山へおでかけしたくなりますね。山と一口に言っても千差万別。標高、山容、ひとつとて同じ山はありません。生えている樹木ももちろん地域や山の標高によって異なります。山にどのような野鳥が生息するかは、山の樹木、植生によって左右されます。ここでは、樹木の中でも人気の高いブナ林に生息する野鳥について、福井県の部子山(へこさん)のブナ林で実施した調査結果をもとにご紹介します。
写真1 5月上旬の部子山のブナ林
大野市と池田町にまたがる部子山(へこさん)は、標高1464m、上部に牧場があるほか、県内有数の美しいブナ林が広がり、野鳥の数も多い場所です(写真1、2)。
写真2 部子山のブナ林
タカ類やアマツバメが尾根沿いを悠然と舞い、林内にはキツツキの仲間アカゲラの木をつつく音(写真3)、ツグミの仲間マミジロの美しいさえずりが響きます。
写真3 ブナの木を登るアカゲラ雄
6月から11月に実施した調査では、このほかハト類やカッコウ類、小鳥類など合計59種類の野鳥を確認することができました。どんな鳥がよく見られたかというとシジュウカラ、ヒガラ、ウグイス、ミソサザイなどで、夏には瑠璃色の羽毛が美しいコルリやシックな色合いのクロジ(写真4)のさえずりもあちこちから聞こえます。
写真4 部子山のブナ林でよく見られる鳥(左上から時計回りにヒガラ、ミソサザイ、クロジ、コルリ)
日本の美しいさえずりの持ち主である日本三鳴鳥のウグイス、オオルリ、コマドリ(写真5)の声も楽しむことができました。時折、森の奥から聞こえる「ジュウイッチ―」。カッコウの仲間、その名もジュウイチの特徴的な鳴き声も魅力的です。
写真5 さえずる日本三鳴鳥のコマドリ
これら行動などから子育てをしていると考えられた野鳥は37種で、周辺の山々よりも突出して多い数となりました。鳥たちの子育てが終わり、里よりも一足早く訪れる秋にはマヒワ(写真6)、ツグミ、イワツバメ、アトリ(写真7)などの渡り鳥の群れがやってきては、ブナ林の実りを口にして栄養補給を行います。
写真6 ブナ新芽とマヒワ
写真7 アトリ
このように部子山のブナ林は、野鳥にとって繁殖地としてだけでなく、渡りの休息地としても大事な場所になっています。さらに絶滅危惧の野鳥が10種も確認され、部子山のブナ林が豊かな生態系を育んでいることを物語っています。一方で、近年、分布が拡大している特定外来生物種のソウシチョウも部子山で確認されました(写真8)。ソウシチョウはササ藪など繁殖環境の似ているウグイスなどへの悪影響が懸念されています。
このように豊かな生き物を育む「生命のゆりかごブナ林」が、健全な状態で未来へ残せるよう、私たちひとりひとりができることから何かアクションを起こしていきたいものです。
写真8 特定外来生物ソウシチョウ
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