山の日レポート
通信員レポート「これでいいのか登山道」
【連載22】これでいいのか登山道
2024.05.01
連載22回目の今回は、富士山に造詣の深い登山道法研究会副代表の森孝順さんに、富士山を満喫する「山の道」について綴ってもらいました。どうぞ、美しい写真を味わうとともに、それぞれの登山道の歴史などにも触れてみてください。
文・写真 森 孝順(登山道法研究会副代表)
山登りの一番の楽しみは、汗を流して到達した山頂から、雄大な景色を眺めることにあります。ブエナ・ビスタ(Buena Vista)は、スペイン語で素晴らしい展望、絶景を意味します。富士山は、日本を代表するブエナ・ビスタの名峰です。
富士山はどの方角から撮影しているのか、端正な山体のため写真で見分けることの難しい山です。それでも見る方向により山頂部の形が微妙に変化すること、静岡県側の大沢崩れと山梨県側の吉田大沢の位置、宝永火口など山腹にある側火山の配置などで見当をつけることができます。
日本の山々は戦後の拡大造林により、広葉樹が伐採されてスギ、ヒノキが植えられてきました。近年、これらの針葉樹が成長して展望を妨げている山道が多くなりました。新緑、紅葉、落葉の四季の変化を楽しめるように、歩道沿いは明るい広葉樹に樹種の転換ができるとありがたい。山頂部では眺望を満喫できるように、周辺の樹木を管理して、通景線(ビスタ)の維持をしたらどうでしょうか。
【雁ヶ腹摺山】
山梨県側の雁ヶ腹摺山は、大菩薩嶺から続く小金沢連峰の支脈にある山のひとつで、旧五百円紙幣の裏側に印刷された富士山の原画となった眺望地です。最も端正な富士山のブエナ・ビスタを楽しむことができる山です。眺望方向にはカヤトの原が広がり、富士山の残雪が映える新緑の頃と、初冠雪を迎える10月頃がおすすめの山です。
【信州峠の横尾山】
八ヶ岳山麓をドライブの途中、信州峠から横尾山に立ち寄り、思いがけずブエナ・ビスタを満喫しました。山頂付近は一面になだらかなカヤトの草原が広がり、瑞牆山、金峰山、甲斐駒ケ岳、八ヶ岳、そして山並みの上にそびえる富士山を望むことができます。稜線には「カヤトの原」の地名標識があり、貴重な山村の原風景がいまでも残っています。カヤトの原は山焼きにより自然に手を入れ、世話をすることで維持されてきましたが、近年、生活様式の変化で消滅の危機にあります。
【富士山麓からの赤富士】
山の風景は、日の出と日の入りで刻々と変化するのが面白い。特に山頂で迎えるご来光は、日本人にとって格別のご利益があるようです。ご来光はもっぱら山頂で迎える日の出ですが、紛らわしいことにご来迎と言う表現もあります。ご来迎は太陽を背にしたときに自分の姿が霧に映り、その周りに光の環が見られる現象です。西洋では山は悪魔の住むところで、ブロッケンの妖怪と呼ばれ、不吉な扱いとなっているところに文化の違いが現れています。山麓の富士五湖からは、どこでも見事な富士山を享受できます。
【高尾山】
東京近郊の高尾山周辺は、都民が手軽なハイキングを楽しめる山域として、年間300万人近い人々が訪れています。高尾山頂部では、東京方面への眺望を確保するために、目立たないように剪定を実施していますが、それでも成長の旺盛な樹木により数年でもとに戻ります。相模湖側の富士山方面は樹木が大きくなる前に、定期的に刈り払いを行なっています。私たちが享受している眺望地の通景線(ビスタ)は、常に人が手入れをすることにより維持されてきました。
【雲取山】
雲取山は東京都、埼玉県、山梨県の境界にある標高2017mの山、東京都の最高峰です。山頂から奥多摩駅に至る石尾根は、山火事防止のための防火帯があり、ヤナギランなどのお花畑となっていましたが、近年、シカの食害により、マルバダケブキの群落が拡大しています。この明るい稜線からは、奥多摩湖越しに秀麗な富士山の姿を楽しむことができます。首都圏の登山者のために、安全で快適な登山道が整備されています。
【丹沢山麓の弘法山】
弘法山は丹沢山塊の南端に位置し、秦野市の近郊にある標高235mの丘陵上の山です。弘法山公園として整備されており、山頂にある展望台からは秦野市街を前景に、眼前に迫力のある見事な富士山を堪能できます。ハイキング道は良く整備されており、サクラの名所にもなっています。山頂からは丹沢山塊はもちろん、相模湾、房総半島、新宿副都心のビル街までが眺められます。山麓には弘法の清水などの湧水群や鶴巻温泉もあり、魅力的なハイキングコースとなっています。
【南アルプス荒川岳】
富士山に最も近い3000m級の山々が連なる南アルプスの縦走路は、朝日に輝く富士山の絶好な眺望地となっています。夕映えの富士山とともに、どこでも均整の取れた富士山の贅沢な見晴らしを楽しむことができます。仙丈ヶ岳の縦走路からは、日本の最高峰である富士山と第2の高峰である北岳が重なって見えます。南アルプス南部では、朝日が昇ると同時に、黄金色に染まった富士山が現れます。誰もが静寂のなかで、しばし至福の時を過ごすことが約束された山旅です。
登山道法研究会では、これまでに2冊の報告書を刊行しています。こちらは本サイトの電子ブックコーナーで、無料でお読み頂けます。
https://yamanohi.net/ebooklist.php
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●申込先=〒123-0852 東京都足立区関原三丁目25-3 久保田賢次
●メール=gama331202@gmail.com
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※振込先は報告書送付時にお知らせいたします。
報告書の頒布は、以下のグーグルフォームからも簡単にお申込み頂けます。
報告書申し込みフォーム
先に刊行致しました「第1集報告書」は在庫がございませんが、ほぼ同内容のものが、山と渓谷社「ヤマケイ新書」として刊行されています。
ヤマケイ新書 これでいいのか登山道 現状と課題 | 山と溪谷社 (yamakei.co.jp)
また、このコーナーでも、全国各地で登山道整備に汗を流している方々のご寄稿なども掲載できればと思います。
この記事をご覧の皆さまで、登山道の課題に関心をお持ちの方々のご意見や投稿も募集しますので、ぜひご意見、ご感想をお寄せください。
送り先=gama331202@gmail.com 登山道法研究会広報担当、久保田まで
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