山の日レポート
山の日インタビュー
連載⑪ 東奔西走 ダルマ・ラマ 富山からネパールと日本、世界をつなぐ
2024.02.01
鹿野 「今回のネパール行きには、富山だけでなく、ネパールでの事業展開に関心を持っていたり、ネパールから人材を獲得しようとしたりしている、日本各地の中小企業の経営者を、何人か同行していたんですよね。どんな狙いがあったんですか」
ダルマ 「ご存じだと思いますが、いま日本には10万人を超えるネパール人がいて、その大部分は、いわゆる出稼ぎみたいな形で日本の企業で働いていますよね。制度的には技能実習生なんかが多い。留学生として専門学校で日本語を勉強している人も、卒業したら、なにか資格を取って日本で働きたいからです。
でもその大部分、特に技能実習生のおおくは、実際には低賃金、長時間の単純労働をさせられていて、働く先を自由に移ることもできないし、技術らしい技術を身につける機会もほとんどない。私は日本に、そして日本人の方々にはずっとたいへんなお世話になってきたし、日本が好きですけれど、でもこの問題については納得できない。
もっともこれには送り出すネパール側の機関にも問題があって、渡航費用なんかを借金させて送り出すから、就労先でなにか問題があってもそう簡単にはやめられないような仕組みになってる。
まあ、こういった問題はネパールというか、ネパール人の場合だけではないようですけど」
鹿野 「たしかに技能実習生制度は、もともとは国際貢献のプログラムっていう位置づけで、日本で技術を身につけて一定期間後に母国に戻ってもらうという趣旨だったんだけど、その趣旨通りに運用されているケースは決して多くない。
実際には大部分は、安い賃金で外国人労働者を縛り付けて、しかし数年後には必ず帰国させるという、かなり理不尽な運営実態があるわけですよね。で、いまでは、中小企業のなかには、技能実習生がいるからなんとか経営が成り立ってるというところも少なくない。
さすがにこれはまずいということで、制度改正が検討されてるわけですけれど」
ダルマ 「そうなんです。そして残念なのは、せっかく憧れの日本に来たのに、帰国するころには日本が嫌いになって、もう二度と来たくないと思うようになる人も少なくないってことですね。
で、今回はまず、ネパールから働きに来る人を求めている日本の企業の人と、ネパール側で日本に働きに行きたい労働者を送り出す機関の人が、直接会ってお互いの事情や背景を理解し、意見交換をする機会を作ろうと思ったんです。それがどこまでできたのか、よくわからないけれど、とにかくそこから始めないとって思って」
鹿野 「なるほど。そういうことは、ほんとは政府の機関なんかがやらないといけないのかもしれないけれど、でもダルマさんみたいに送り出し側、受け入れ側、双方の事情を肌で分かっている人が、まずやってみるのはいいことですよね」
ダルマ 「はい。今回みたいな個人レベルでの試みにどれだけ意味があるかわからないけど、まず誰かがやってみないと」
鹿野 「ところで、こういった日本とネパールをつなぐ試みの出発点はエゴマだったわけだけど、そちらのほうも、なにか進展はありましたか」
ダルマ 「進展というか、エゴマについては、いまはむしろいろいろな問題が出てくる時期に差し掛かっているのかな。輸入のプロセスでいろいろと・・・。
細かいことは言いにくいけれど、事業の規模が少し大きくなると、予想していなかったようなトラブルも、出てきますよね。それはしかたないことなのかもしれませんけど」
鹿野 「そうですか。事業の拡大とともに、いろいろむつかしい段階に差し掛かっているということですね」
ダルマ 「はい。きっとこれからもいろんなことがあると思います。でも私の場合、もともとお金を儲けること自体が目的ではありません。まあ会社にしたんだから、損をするわけにはいかないけれど、いろんなことをやって、いろんな方と出会って、勉強して、それが楽しいから、やっていけるんだと思います。
このHPに取り上げていただいたこともそうです。実は私のやっていることと、「山の日」がどう結びつくのか、よくわからない点もあるんですが」
鹿野 「あ、それはそうかもしれない。でも日本は国土の大半が山で、とりわけ農業なんかはたとえ平地でやっていても直接山と結びついている。「山の日」は国民全体の祝日ですから、このHPにも、都会に住んでいる人がときどき遊びにゆく「山」のことだけでなく、もっと広い意味で山を考える視点を取り込みたかった。
で、僕のほうも、このHPの記事を書きながら、いろいろ勉強させてもらったし、なにより楽しかった。ありがとうございました。とりあえずこの連載はいったん終わりますが、今後もダルマさんの活動はフォローして、随時掲載させてもらうつもりです。そのときはまた話をうかがいに来るので、どうぞよろしく」
ダルマ 「こちらこそありがとうございました。来年(2024年)にはソバの話も進むと思いますし、ぜひ、また来てください」
※写真はいずれもダルマさん提供
(聞き取りは2023年11月29日、葉っぴーファーム、)構成 鹿野勝彦
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