文・写真提供：東京都　太田長樹さん

私は大学４年間、新潟県妙高高原赤倉スキー場の宿「西原山荘」で居候してました。
社会人になってからも３０年近く、年末年始連休の忙しい時に宿の手伝いに行ってました。
昭和５３年５月１８日午前６時２０分頃に発生した「白田切川土石流災害」で１３人が亡くなり、
その内の一人が西原山荘の一人娘さんでした。
そのこともあり「西原山荘」には跡継ぎがいません。
１０数年前に「西原山荘」は暖簾を下ろしました。

西原のおじさん、おばさんは今も元気で妙高で暮らしてます。
西原のおばさんは現在８８歳です。
社会人山岳部出身の山女です。
静岡県三島の大東紡織㈱の山岳部だったと聞き及んでます。
６８年前に大変な思いをして南アルプス全山縦走した時の話をよく聞かせてくれます。
山ばかり登っていて仕事した記憶がないとまで言ってました。
会社からは「仕事しなくていいから一所懸命山に登ってくれ。
ただし冬山と遭難だけはするな。」と言われていていたそうです。
結婚して妙高高原新赤倉でスキー宿「西原山荘」を始めました。

※会社の倶楽部は山岳部、野球部、テニス、バレーボールがあったそうです。
　三島工場の山岳部は冬山は禁止だったそうですが鈴鹿工場は禁止ではなかったそうです。
　転勤で鈴鹿工場に一年行った時にロッククライミング、アイスクライミング、沢登りを覚えたそうです。
　越後三山の縦走が自分の人生を変えたキツイ山行だったと言ってました。
　その時に知り合った鈴鹿山岳協会との繋がりが「西原山荘」の原点になったと言ってました。

赤倉温泉の宿で一番仕事がきつい宿で、この宿で１シーズン居候できた奴は
どこに出しても通用する、と言われてました。
怖いおばさんでした。今は丸くなり優しいおばさんです。我儘だけど…。
屋号の西原は地名です。

上の集合写真は「第８回西原山荘OB・OG会」2023/10/21に集まった居候達です。
おじさん、おばさんを囲んでの集合写真です。
下のソファーに座ってる面々の写真は初代居候から４代目居候です。

赤倉一番の凄腕のおばさん

西原のおばさんは「赤倉一番の凄腕のおばさん」と言われています。
スキーシーズンの季節旅館では飽き足らず、体育館を作り春夏秋の大学の体育会系クラブの合宿を始めました。
他の宿にクラブの部員を宿泊させたりして地域のバランスをみていました。
居候達は先に送った集合写真に全員載ってます。
皆西原のおばさんに叩き上げられた兵です。

１９７５年当時の「スキー宿の居候」

宿の仕事を手伝えば
無報酬だけど寝床と食事とスキー（午前中1時間半、午後２時間半）をやらせてもらえました。
朝は４時半起き、雪が積もってると４時前に起こされ雪掻きです。
夜は宴会が入れば１０時過ぎまで片付けやってました。
お客様の使い残したリフト券を恵んでもらい。
飲み残したお酒も置き土産でもらい。
スキー学校の臨時指導員（初級者担当）で現金を稼ぎました。
そのお金でお酒を買い、リフト小屋の切符切りのおやじさんに差し入れ、
リフトを無料で乗せてもらったり色々でした。

当時の私の仲間はこれで十分でした。
７６年ころからアルバイト募集するようになり仕事内容がかなり変わりました。
時代の流れだなと思いました。

写真は雑魚寝…今の子供達に見せても分かるかな。
いや修学旅行って今でもこんな感じかもしれない。

居候番頭仲間

居候もバイトも、お客さんからは男番頭の誰々さん、女番頭の誰々さんと呼ばれてました。
「番頭さ～ん」と呼ばれるのが嬉しかったです。
100人宿泊できる宿だったので番頭は繁盛期は男女合わせて４～５人いました。
そんな番頭仲間の写真です。

番頭仲間のチームワークは完璧でした。
厨房の片付け、部屋の掃除、布団の入替、乾燥室の掃除、風呂掃除等々をやりながら、
一人づつ交代でスキーウェアーに着替えに行きます。
9時半に午前中の仕事を終え、全員一斉にゲレンデに出ます。

雨が降ろうが風でリフトが止まろうが吹雪で前が見えなくてもおばさんに、
「スキーしに来たんだろうスキーに行け。歩いてゲレンデ上れ。」と宿を追い出されます。
近くの喫茶店でお茶すると密告されてしまうので
他の宿の番頭仲間が手伝ってる隣のゲレンデの喫茶店で時間を潰していました。
シーズン終り頃にはスキー検定２級を受けられるくらいまで
番頭仲間でレッスンして滑り込みました。
宿の仕事は厳しく緊張の連続です。夜は夜で常連のお客さんが番頭部屋に押しかけ宴会です。
番頭仲間の息の抜ける場所はゲレンデと布団の中だけでした。
同じ釜の飯を食べた居候番頭仲間の絆は最強です。