山の日レポート
山の日インタビュー
連載⑥ 東奔西走 ダルマ・ラマ 富山からネパールと日本、世界をつなぐ
2023.11.16
鹿野 「今ではダルマさんは、6次産業化(注)を目指す先進的な農業経営者っていうイメージが強いけど、農業にかかわるきっかけはなんだったんですか」
ダルマ 「はじめは自宅の庭で野菜を作ってて、ごく軽い気持ちで、小松菜を専門に作ってた荒木(龍憲、射水市在住)さんのところに、野菜つくりの話を聞きに行って、アルバイトをすることになったんです。北陸の農家はコメつくりが多いけど、冬は雪が積もるから仕事がない。でも荒木さんのところはビニールハウスがいっぱいあって、一年中そこで何人もパートの人を雇って、仕事をしている。
それと、そのころは奥さん(真理子さん)が、農場のそばの2階建ての家で、週2回か3回、午後にカフェを開いていて、そこに近所の人が集まって楽しそうにおしゃべりをしたりしてた。
ここは面白いなって思った。それと、そのころ、仏画の制作も結構やるようになってたから、アトリエを探してたんです。そうしたら荒木さんが、カフェのある建物の二階は使ってないから、よかったら使ってもいいよって。アルバイトも、最初はひまなときに来てくれればいいっていう感じで、早速始めました」
鹿野 「でも実際には、しばらくすると荒木さんのファームの作業の中心になってしまった」
ダルマ 「そうですね。荒木さんは、私が通い始めたころには富山県の小松菜生産組合のリーダーで、小松菜をJAに出荷するだけじゃなく、東京のホテルにも直接納入するくらい評価が高かった。なにしろまず土壌つくりを熱心にやるし、農薬は最小限しか使わないから、生で食べられる小松菜ができる。
だから勉強することがいっぱいあって、すごくおもしろかったんです。ただ働いてるのは、ほとんどがパートの、高齢の女の方たちで、若い男性は私だけだったから・・・」
鹿野 「で、それからしばらくして、荒木さんからファームを引き継がないかって、誘われたわけですね。でもそのころは、自分がファームを引き継いで経営するようになるとは、思わなかった」
ダルマ 「ええ。日本の法律とか、特に農地の継承とかについては、いまでもよくわからないこともあるんだけど、ネパールだったら、農業をするってことは、まず自分の農地を持つってことですよね。でも日本では、必ずしもそうじゃない。荒木さんからファームの経営を継がないかって言われても、それならなにをすればいいのか、なにをしなきゃいけないのか、まったくイメージが湧かなかった」
鹿野 「それはそうだよね」
ダルマ 「でも、このファームが無くなるのはよくないってことは思いました。で、いろいろあって、結局2017年に、ビニールハウスやそこで働いてる人たちを含めて、ファームの経営を引き継いだんです。外国人が農業経営を正式に引き継ぐのは、富山県では私が初めてだったらしい」
鹿野 「ということは、出荷先との関係なんかも含めて、全部引き継いだわけですね」
ダルマ 「はい。とにかくいろんな手続きがある。そこで必要な書類を作るだけだって、すごく大変。そういう書類で使う言葉は、ふだん使う日本語とは全く違うじゃないですか。それと日本の場合、農業にはいろんな補助金の制度があって、その申請なんかも、最初はどうすればいいかわからない。
でもそういうとき、荒木さんだけじゃなく、ほんとに多くの人が親切に手伝ってくれました。なんだかすごく期待されてるらしい。こんなこと言っていいかどうかわからないんだけど、それだけいまの日本では、農業経営を、世代を超えて続けてゆくのは大変なんだろうなとも思いました」
鹿野 「で、経営を引き継いでから、ダルマさんが変えたことも、けっこうあるように見えるんだけど・・・」
ダルマ 「そうですね。小松菜つくりの技術面は、荒木さんが教えてくれたことをほとんどそのままひきついでいます。環境面のことも含めて。で、当時からいろんな認証も受けてて、その中には日本だけじゃなくEUの認証もある。
それでたまたまある野菜の展示会みたいなのに参加したら、ヨーロッパと取引のある商社の目にとまって、フランスへ輸出することになった」
鹿野 「え、小松菜をフランスへそのまま出荷するの?空輸で?」
ダルマ 「はい。私もびっくりした。フランスなんて行ったこともないし、どんなふうに使われてるのかも知らないけど、とにかく包装に日本の地図を入れて、そこに富山の位置も入れて出してます」
鹿野 「それは初めて聞いた。驚いたな。いつごろからですか」
ダルマ 「ファームを引き継いでわりとすぐです。もう5~6年になるかな」
鹿野 「変化した点で大きなことはなんだろう」
ダルマ 「アルバイトをしてるころから気になってたことがあっったんです。
小松菜の出荷先は、やっぱり生産組合のメンバーとしてJAに出すのが大半なんだけど、その規格がきびしいんですね。葉っぱがしおれてるとか、虫食いが多いとかならしかたないけど、ちょっとサイズが大きいとか小さいとかでも、規格外としてはねられてしまう。
小松菜だって生き物だから、同じ種を同じハウスに同じ日に植えたって、収穫するころには、大きいのも小さいのもいろいろあるじゃないですか。それで廃棄になるのが、30%近くある。これってどう考えてももったいない。なんとかしなきゃって思いました」
注 6次産業化 1次産業である農林漁業の生産物を、自ら製造加工(2次産業)し、さらにその製品の販売(3次産業)もてがける(1+2+3=6)こと
(次回は12月1日掲載)
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