山の日レポート
通信員レポート
全国山の日協議会とSDGs
2023.04.17
SDGsは、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)の略語で、2015年の国連サミットで採択された、持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現に向け、2030年を年限とした世界共通の17の目標となります。貧困、不平等・格差、気候変動による影響などさまざまな問題を根本的に解決し、すべての人たちにとってより良い世界をつくるために設定されたものです。
日本でも政府主導(閣議決定)でSDGsアクションプランを設定し、「優先課題 8 分野」において具体的な施策やその予算額を整理し、2017年公表の第1回アクションプラン以降、毎年改定されながら展開されています。
そもそも地方創生は、SGDs活動が始まる以前の2014年に政府が設置した「まち・ひと・しごと創生本部」が主導する政策であり、少子高齢化による地方の人口減少や地域経済縮小を克服し、地方の将来にわたる成長を目指すための様々な施策が盛り込まれています。この中でも、人々が安心して暮らせるまちづくりと地域活性化という政策課題においては、SDGsの理念と馴染む部分が多くあることから、両者の相乗効果を期待しSDGsを原動力とした地方創生を推進する流れへと変化していきました。上記のSDGsアクションプランには、2018年度拡大版より「地方創生に向けた自治体SDGs推進事業」が具体的施策として取り込まれました。また、その動きを踏まえ「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」が設置され、地方自治体によるSDGs達成の取組に資金支援を行うなどで、徐々に地方自治体におけるSDGs活動が広がってきました。
現在の地方創生SDGsは、当初からの目標である①人口減少と地域経済縮小の克服、②まち・ひと・しごとの創生と好循環の確立、および③人々が安心して暮らせる持続可能なまちづくりと地域活性化という、経済・社会・環境に3つの要素をバランスよく織り込んだ政策推進を目指しており、それぞれの地方自治体が政府からの予算的支援を通じ主体的に事業展開を行っています。
企業におけるSDGs活動は、地方自治体のSDGsより複雑な組み合わせになっています。ひと言でいうと、CSR+ESG=SDGsといった関係でしょうか。以下、その経緯や全体像となります。
CSR(Corporate Social Responsibility=企業が社会的存在として果たすべき責任)は、企業を取り巻く利害関係者=顧客、従業員、取引先、投資者、及び社会全体などに対する社会貢献や環境配慮などを自主的に取り組む活動です。当初は、企業不祥事、公害問題などネガティブな要素に対する企業防衛的な意味合いもありましたが、近時は、企業のリスク要素を軽減させるポジティブ志向の活動と捉えられるようになってきました。
ESGは、企業と投資家の関係性の中から生じた動きです。2006年に国連が提唱した責任投資原則(PRI=Principles for Responsible Investment)に賛同/署名する主要な機関投資家が、ESG課題(E/環境上の問題、S/社会の問題、G/企業統治の問題)に真面目に取り組む企業を選別し投資する方針を打ち出してきました。気候変動などの環境問題、低賃金労働などの社会問題、企業不祥事など企業統治の問題が企業価値の毀損=投資価値下落につながるため、ESGを重視する企業を投資対象に組み込むことが、長期的リスクヘッジにつながり、結果として投資パフォーマンス改善を期待するものです。企業自身もESGに注目する機関投資家との対話を通じ、ESGを重視した経営が重要であるとの理解が進んできました。
SDGs活動自体は、国連が示す普遍的開発目標であり、日本においては政府主導で進められたことから、企業の事業活動に直接結びつかない内容/目標なども含まれています。ただし、用語としてのSDGsは、2020/2021東京オリンピックで盛んに宣伝されたこともあり、近時、世間的に広く浸透・認知されています。このため、企業が自主的に取り組むCSR活動、更には機関投資家との対話で重視されるESG経営について、むしろSDGs活動の一つと整理し、対外的には“SDGs経営”として分かり易すくアピールするようになってきました。
留意すべきは、企業ごとにCSR、ESG、SDGsの何を重視して取り組んでいるかが異なる点です。上記の通り3者の関係は非常に曖昧ですから、単に「SDGsを重視した経営に取り組んでいる」との企業アピールを鵜呑みにせず、我々個人は、興味ある企業のSDGs活動が何を指すものかをきちんと見極める必要があります。
残念ながら、地方自治体が取り組む地方創生SDGsと、企業が取り組むSDGs経営との直接的な関係はありません。やはり、非営利法人と営利法人では、目指すべき目標が大きく異なるからです。
そうはいっても、地方自治体も企業も、人々が主体となり運営される組織なので、そこに集う人々・利害関係者(≒多くは地域住民)に対して、地方自治体/企業のそれぞれが重視する活動目標を共有し、理解してもらう必要があります。企業であれば、自社の製品やサービスを認知してもらい、その機能や付加価値に関する情報提供を行い、販売・サービス提供するといった営利活動が主目的となりますが、単に価格が安いとか、高機能だとかだけでなく、企業そのものが環境や社会に配慮した経営を行っている点も、差別化要素の一つとして伝えるべきメッセージとしてより注目されるようになりました。
まとめると、地方自治体も企業も、それぞれの目標達成に用いるSDGs活動を、単に便利な用語として利用するのではなく、自らを取り巻く人々に対し達成すべき目標をきちんと伝え、理解してもらい、更には支持してもらうという積極的な動きが求められると考えます。それにより、地方自治体が目指す地方活性化が実現し、また企業も自身の商品やサービスに対する強い支持を得られる、Win-Winの関係が構築できるのではないでしょうか。
当協議会は、「山を愛し」「山に親しむ」をテーマに掲げ、人々と自然をつなぐ小さな役割を担う団体です。このため、地方自治体のSDGs活動を直接支援する立場でもなく、また、企業のSDGs経営への関りなども、現時点ではごく限られたものになります。
それでも、地方創生とSDGsにおいては、例えば「人々が安心して暮らせる持続可能なまちづくりと地域活性化」といったテーマに関し、山と親しむ活動を通じての小さな貢献ができると考えています。
また、企業のSDGs経営に関しても、その企業が重視するSDGsテーマを私どもの活動を通じて、それまで届けられなかった人々に対してつなげることが出来ると考えています。
少し大げさな表現になりますが、当協議会は「山」をキーワードに、地方自治体と企業、そして地域住民をつなぐ小さな触媒のような役割が果たせるのではないかと思えるところです。
以上見てきたように、SDGsという単語はその利用者にとって幅広い意味合いを有することから、全体像を理解するのは結構難しいことが分かりました。とはいえ、どの立場においても持続的な発展や成長のためには、環境問題や社会問題など人々の暮らしにマイナス影響を及ぼす事象には、十分な配慮や対策を施す必要があるとの認識が相当広まってきました。当協議会でも、地方自治体や企業のSDGs活動に対しどのような貢献ができるかを、常に考えていくことが重要だと認識しているところです。
長谷川臣介 公認会計士 (全国山の日協議会 監事)
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