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山の日レポート

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自然がライフワーク

【連載】地図(地形図)についての雑記帳 その3~地形や植生を読み取る~

2022.03.11

全国山の日協議会

金沢大学名誉教授 文化人類学 鹿野勝彦(全国山の日協議会 評議員)

地形や植生を読み取る

高校から大学にかけて山岳部に所属し、四季を問わず北アルプスや南アルプスなどの3000メートル級の山々へ通うようになり、地図とのつきあいはより深まった。そのころには5万分に1の発行元は国土地理院、等高線は褐色、水系などは水色、道筋や地名、標高などの文字が黒の3色刷りとなり、記号の説明なども基本的には当用漢字で左から右に記されていて、ずっとスマートに、かつわかりやすくなっていた。定価は45円。

さすがに私も、時計や磁石は持つようになっていたから、「時間と「空間」の組み合わせで自分の位置を確認し、実際の行動が計画に比べてどんな状態にあるかを把握することはできるようになっていた。当時、日本山岳会が編集し、茗渓堂が発行元になっていた「山日記」というものがあって、そこには日本中の主な山々の主要なルートと、その標準的なコースタイムが記載されていた。そのコースタイムよりどれくらい早く歩けたかを競ったりしたこともある。

地図記号が教えてくれるさまざまな情報がある

地図を使ううえでそれまで以上に注意するようになったのは、そこに記されているさまざまな記号を活用することである。人家のあるところなら集落地、道路、鉄道などが図示され、役所や学校、病院、神社等々が固有の記号で表されているほか、田、畑または空地、果園といった土地利用のありかたも読み取れるのだが、山で問題になるのは、斜面の方向、等高線の間隔や密度、尾根や谷の幅といった一般的な地形、岩壁、露岩、崩壊地、雨裂など場所ごとの状態、それに広葉樹林、針葉樹林、荒地、竹林といった植生などについての記号が教えてくれる情報である。それらの情報が持つ意味をどう読み取ってゆくか。

視界を遮られる森林のなかにいても、まわりの樹木が広葉樹から針葉樹に変わってくれば、おおよその標高の見当がつくとか、霧のために遠くが見えなくても、周囲の斜面の状態に注意していれば、どのあたりにいるかがおぼろげながらわかってくるとか、地図上に記載された情報を活用することで、できることがいろいろある。

あの斜面は雪崩が出やすいだろうか、雪庇はどの方向に?

さらにレベルを上げてゆくと、その時点と異なる状況をどう推測するか、が課題となってくる。たとえば無雪期に山を見て、積雪期にそこがどうなるかを考える。具体的には、冬山に入る前、秋に偵察に行き、そのルートに雪が積もったときにどうなるかを、地図も参考にしながらルートを決め、計画をたてる。山では一般に、ある程度雪が積もれば、登山道は使えなくなることが多い。尾根筋では、道はしばしば稜線からやや下の山腹を巻いているが、積雪期には稜線そのものにルートをとるのが原則となる。逆に、無雪期なら藪がひどくて通過できないところも、雪が積もれば通過できるようになることもある。あの斜面は雪崩が出やすいだろうか、雪庇はどの方向に出るのだろうか、安全なキャンプはどこに作れるだろうか。もちろん目視することが前提だが、ルートを取り巻くすべての斜面が見えるとは限らない。さまざまな意味でやはり地図が持つ意味は大きい。

磁石で方向を確認すれば、たいがいの山の名前は分かる。

また山へ行くときには、20万分の1の地図も持参するようになっていた。こちらは実用というより、遠くに見える山の名前を確認するのが、主な用途だった。富士山や槍ヶ岳のような、一目見ればわかる姿を持つ山はそんなに多くはない。広域をカバーしている20万分の1なら、自分のいる場所から磁石で方向を確認すれば、たいがいの山の名前は分かる。

2万5千分の1の地図を使った記憶は、あまりない。たしかに2万5千分の1なら情報量は多いけれど、5万分の1の1枚分のエリアをカバーするには4枚が必要になる。北アルプスを剣岳から槍ヶ岳を経て上高地まで縦走しようとすれば、5万分の1なら、「立山」、「槍ヶ岳」、「上高地」の3枚ですむが、2万5千分の1だと12枚必要になるわけで、面倒だったのだ。2万5千分の1をよく使うようになったのは1984(昭和59)年に金沢大学に赴任し、学生を連れて石川県内の農山漁村などの調査をするようになってからのことである。(つづく)

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