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山の日レポート

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自然がライフワーク

【連載:TM山ニュース#5】新田地帯の山

2022.01.17

全国山の日協議会

名古屋大学名誉教授 人文地理学専攻 溝口常俊

「山」はどこにあるのか。山岳地帯だけでなく平野部にも、いやゼロメート地帯、新田地帯にもある。今回は新田地帯の山探しをしてみたい。

最初に尾張平野のマイナス1mの地で「山」話を聞いた時の驚きを記した高畑ニュース#1730(2018.1.15)を紹介し、後半で大阪の新田地帯の絵図に出ていた「山」を記した拙書評(歴史地理学,2021.5)を抜粋紹介したい。

 <前半>

愛知県史編さん時に、県史編纂室の渡辺さんと2人で新田地帯に出かけ、絵図を見せていただき興味深いお話を伺った。ゼロメートル地帯の飛島新田の絵図に「飛島山」という絵と文字を見つけ、「山」ってこんなところにもあるのだ、と感じ入った。今までの地理学・地形学では、山は山岳地帯に、としか習ってこなかったから私にとっては大発見であった。要するに地元の人にとって標高1mでも山であり、洪水時に救いの場所となる。「山とは何か」を住民目線で考えるべきだと思った。
調査地:海部郡十四山村神戸新田,六条新田,&弥富町寛延新田
調査日:2000年6月19日(月),調査者:渡辺英和(県史編纂室),溝口
Informants:中村一郎(神戸新田)75才くらい,前橋博(六条新田,坂中地新田)55才くらい, 松岡光義(寛延新田)65才くらい。

*神戸(かんど)新田:神戸文左衛門(名古屋の豪商,犬山に本家,白鳥の貯木場を管理,紀伊国屋文左衛門らと材木を江戸に廻す。江戸でマンション経営,宝永4年(1707)藩に願い出て干拓し始めた。)
神戸家の文書は多数あり(大半は国立文書館所蔵,県でいくらかマイクロ撮影済。現在十四山村史編纂中で一部掲載されるであろう。宗門帳もあるらしい)。

・神戸新田の先に飛島新田(藩直営,責任者切腹)が出来てから,神戸新田の排水がうまくいかなくなり争論が頻発。絵図を見ると「飛島山」なる記載有り。木曽川,佐屋川,筏川の土砂が積った微高地で芦が茂っていたという。海側が低いという常識が崩された。文政5年(1822)に排水路(四郎兵衛新田なる細長い新田)を作ったが,底が浅いため十分な機能を果さなかった。

・坂中地新田には「重田堀潰れ」が多くあり。普通の田では低すぎ,かさ上げして堀田を造成した。この水路は各家の宅地近くまで来ており,舟で家と田んぼが行き来しやすいようになっていた。腰まで浸かる水の中に入って稲刈りし,稲を舟に積んで家まで運んだ。家の庭でハサに掛けて乾かした。稲刈りにはナンバ(履いたわらじをおおう木の箱靴)を使用した。わらじのみで作業するときは稲の切株の上を歩くようにした。刈入れは11月に行っていたため,氷が張ることもあり作業はつらかった。
堀の水路が密集するところは水田の廻りに背丈の高い芦が繁茂し,恰好のデイトスポットであったらしい(前橋さんが近所のおじいさんによく聞かされた話)。

<後半>

小野寺淳・平井松午 編『国絵図解読辞典』創元社、2021.2の拙書評が『歴史地理学』63-3,2021.7に掲載された。以下、その一部。(注:〇印の番号は辞典での記載順番号)

評者の関心事に「災害」があり、㉛「国絵図にみる災害」は熟読させていただいたが、㉟の「国絵図に見る『大坂川口新田』の開発」にも、災害記載があった。解説では新田地故自然災害による過酷な被害を受けたとある。そこで図3「天保期の西成郡湾岸部」の絵図を見たら、海に突き出た新田に「波除山」(瑞賢山)、「目印山」と命を救う「山」があるではないか(図1)。
前記の地理総合学習で、新田地帯は水害の危険性が高いことを学んだが、その先の防災対策はどうだったか、その一つが「山」であったことを㉟で学ぶことが出来よう。・・・「山」が日常生活の上で大切であったことは、㉞の「正保度の領内図にみる植生表現」に詳しいし、領地争奪の山論になったことは㉘「国絵図と山論」に詳しい。
解読文のタイトルか見出しに「山」が出てくるのは、この2論の他に、⑳と㉜がある。⑳では、幕府は、各地の領主に対し自国の国境より遠望して遠くの目立つ山「見当山(みあてやま)」と見当山を望視する起点となる「望視山(ぼうしやま)」も報告させたとある。国絵図を正確に作成するには目印となる「山」の存在が重要であることを教えてくれた。㉜では霊山が取り上げられ「山」が聖地になることを確認させてくれた。㊹では金山、銀山が出てきて山の価値を高めている。
そして、繰り返しになるが、山岳地帯でも丘陵地でもない新田地帯に「山」があり、防災の役割を果たしていたことを強調しておきたい㉟。

図1 新田地帯の山:天保期の西成郡湾岸部(小野寺淳・平井松午 編『国絵図解読辞典』創元社、2021.2、p200)

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