山の日レポート
通信員レポート
30年ねむり続けた北島 隆「想山苑」の蔵書と資料
2021.12.01
千葉県山岳連盟元理事長 植草勝久様に綴っていただきました。
明治に生まれ大正、昭和と山に登り指導者として活動した北島隆氏(1904年―1994年)が、永年収集して大事に保存した山の書籍や資料が廃棄や散逸を逃れ、このほど谷川岳山岳資料館に引取られた。
同氏は千葉県山岳連盟の元名誉会長で同連盟や全日本山岳連盟の創設にも関わった人である。
西千葉駅近くの住宅街の一角に木造平屋の家屋が、時代に取り残されたようにある。
ここは北島さんが、晩年に過ごした「想山苑」と称した隠居所である。
6畳の壁一面に書棚があり、山の古書、雑誌、書類やファイル等が並んでいる。また、飾り棚にもピッケル、アイゼン、スキー等が所せましと展示されている。鴨居の上の壁は、73歳で登った谷川岳一ノ倉沢やマッターホルンを背景にした登山姿の写真パネルが飾られている。
北島さんは生涯にわたって収集した登山関係資料に囲まれて、奥様とこの庵で余生を送っていた。
書棚には『日本山嶽誌』(高顕式著、1906年)、『山と渓谷』(田部重治著、1929年)等々…稀少な名著がずらりと並んでいる。また、山岳雑誌も『山岳』(日本山岳会発行)、『山と渓谷』(山と渓谷社)、『山小屋』(朋文堂)などが創刊号から揃えられている。
しかし、最も価値があると思えるのは、その膨大な資料である。きれいにファイルされ、資料名を表紙と背表紙に筆字で記している。例えば、「山岳記録」と表記されたファイルは、昭和13年の「第一号」から平成2年の「第十五号」まで15冊に分けられて保存されている。
北島さんの活動記録と山岳組織のそれぞれの立場で収集した、会議資料やその記録であるが、私たちの先輩がいかに活動したかの生の記録でもある。
北島さんの没後約30年、令和の時代になり次男の英明さんが、「何とかおやじの集めたものを保存して有効活用できないものか」と、私に相談を持ちかけてくれた。
早速、各方面に引取り手を探した結果、当時日本山岳協会の会長で谷川岳山岳資料館の館長であった八木原圀明さんが想山苑を下見してくれ、その大部分を同館で受入れてくれることになった。
オリンピックの開催やコロナウイルスの感染拡大等もあって、作業は延期されていたが、本年11月23日に段ボール箱38個分の書籍や資料のほか北島氏が愛用していた年代物のピッケルやスキー板などを谷川岳山岳資料館に送ることができた。
来春の谷川岳山岳資料館での公開が待たれるところである。
千葉県山岳連盟元理事長 植草勝久
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