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山の日イベント

山の日イベント

全国「山の日」フォーラム

第6回全国「山の日」フォーラム(石川県加賀市) 【報告4】

2021.07.01

全国山の日協議会

伝統を通じて過去と未来をつなぐ

檜細工は400年以上前から続く、石川県白山市の伝統工芸です。言い伝えによると、旧尾口村深瀬に辿りついた、霊峰白山を登る僧が、手取川沿いの狭くて厳しい土地で農作業さえできない深瀬の人に、自分の被っている笠を渡して、その作り方を教えたと言われています。それ以降、深瀬ではずっと檜の笠が作られてきました。海外からの人気もあり、たくさん作られていた檜細工ですが、1977年に、手取川ダムの建設により、深瀬が水に沈み、集落の人々が移動する時点では、生産量が減少傾向にありました。その後はさらに減少し、衰退の一途を辿っていますが、今、オーストラリア出身のメイ・スーザンさんが後継者として、檜細工の復興に励んでいます。

手取川ダム

石川の伝統工芸『檜細工』

常に進展している現代社会では発展の速さのあまり、過去の知恵が失われやすい状況になっています。「イノベーション」ばかりが注目される現在、祖先から伝えられた昔ながらの古い技術や知識は不要とされがちです。しかし、この古い知識にはたくさんの有用な情報が含まれていて、過去を学ぶことを通してよりよい未来へと進むことができると思っています。特に伝統工芸は現代社会の課題である自然資源の利用や少子高齢化など、様々な課題を解決する力を持っていると信じています。

檜細工の定番 檜笠

歴史を通じたイノベーション

みなさんは「伝統工芸」と聞くと、数百年ずっと、全く形が変わらない物だと考えますか。そうだとすると、次々と新しい物が作られる現代の中で、形が変わらない伝統工芸は面白くないと感じるかもしれません。
ですが、実は伝統工芸は常に変化しており、何百年も同じ形が続いている訳ではありません。檜細工の定番は檜笠ですが、檜笠はテクノロジーに合わせて進化しています。例えば、昔は笠の淵止めをする時に、竹の輪を針金で結びつけており、これは非常に手間がかかる作業でした。しかし、ミシンが発明され、ミシンでササっと留める方法により、早く作れるようになりました。他にも、昭和初期には檜細工の帽子も開発されました。時代が求める価値観をくみ取ったこの帽子は、アメリカまで輸出されるほど、非常に人気となりました。
このように、檜細工には、様々なイノベーションがありました。そして、この知識は工芸とともに伝わり、こうした工芸の歴史の中でテクノロジーの進化とともに、そのテクノロジーを利用したより良い伝統工芸を作ることが可能となります。例えば、現代の檜細工では笠だけではなく、天上の飾りやアクセサリー、ランプシェード等、新しい物が常に作られています。又、オーダーメイドや、コラボ等による制作も行われています。伝統工芸で培われた知識を活かし、現代のテクノロジー、デザイナーや工芸師と協力し合って、最新技術と融合した新しい伝統工芸が次々と作られます。

アクセサリー

郷土愛を深める

自分の国、自分の出身などに誇りを持つこと、いわゆる「郷土愛」は自分のアイデンティティーの一つになります。私は日本がとても好きですが、生まれ育った故郷での思い出を心の中でいつも大切にしています。ですから、私は生まれ育った故郷には、何歳になっても思いを馳せるでしょう。しかし、現在、オーストラリアでも、日本でも、田舎では仕事の選択肢が少ないと感じる若い人が多く、良い仕事を求めて、地元から出ていく傾向が強くなっています。若い人が減り続け、後継者が少なくなっていくため、フィードバックループになります。
現在、檜細工はかつての深瀬に住んでいた人や、その周辺の街に住んでいる人々に非常に愛されています。この方々は地元の工芸を後継したいという思いから、檜細工を習っています。そのおかげで、数年前から、檜細工が再び注目され、人気が出るようになりました。徐々に檜細工を習う人が増えてきて、ますます檜細工の存在感が高まっています。伝統工芸には郷土の歴史と魅力が詰まっているので、地元に誇りを持っている人に対しては非常に馴染みやすい物になると考えています。
檜細工がもっと有名な伝統工芸品になれば、観光などを通じて、様々な分野に広がり地元での起業や雇用の機会が増え、若い人が地元に誇りを持ちながら働くことができ、郷土の魅力を強く発信できると思っています。

檜細工を習う

持続可能な社会になる

昔の生活は主に持続可能でした。特に山の方の暮らしでは、供給連鎖が短く、資源は身近にある自然の中で手に入れることができました。昔の人は、山の資源を使い果たしてしまうことのないよう、資源を大切に使い、循環させるという意識がありました。
しかし、今は、供給連鎖が非常に長く、どこにいても世界中の資源を手に入れることができます。また、その資源は数世代にかけて使用できるので、資源の枯渇は、今の時代では喫緊の問題ではないと思われがちです。資源を大切にする意識が低く危機感がないと感じます。それでも、世界では資源が無くなっていたケースも出ており、資源の枯渇問題は重要なことと捉える必要があります。今のうちに社会全体で資源に対する意識を改善しないと、次の世代は大変な状況になるでしょう。
社会を完全に改善するのは非常に難しいことですが、持続可能な社会づくりの取り組みは少しずつ進んでいます。その取り組みの一つが伝統工芸です。古くから伝わる伝統工芸は、当時の持続可能なシステムとして確立されています。材料は全て自然から取れるものであり、自然に返すこともできます。また、多くの資源は地域産のものを使っているので、資源を自分の目で見て管理ができます。プラスチックやリサイクルできない材料で作った物より、自然の材料から作られた伝統工芸品のほうが高品質で長持ちし、現在の職人の技術の向上にも役立ち、将来の世代にもつながっていきます。

古くから山の暮らしに息づく伝統工芸の知識と技術、そして現代のテクノロジーが融合することにより、さらに革新的な伝統工芸を創り出すことができます。昔から伝わるこうした伝統工芸は、地元の人に非常に愛され、地域のブランド化に大きく貢献するものとなります。材料は身近な自然から供給されるため、将来にわたって作り続けることができます。伝統工芸を次世代につなぎ、持続可能な社会づくりを進めていきましょう。

筆者について

メイ・スーザンはオーストラリア出身で、現在は白山市の白山手取川ジオパーク推進協議会に勤務しています。完全に田舎、というか山で生まれ育ったので、自然と山が大好きです。また、子供の頃から手先が器用で、色々な工芸に興味がありました。2016年から石川県に住みはじめて、日本の伝統工芸に非常に興味が沸き、伝統工芸を習いたいと思いました。2017年の夏に檜細工を紹介され、すぐやりたいと決心し、すぐ先生に「教えてください!」とお願いして、練習を始めました。現在は檜細工をやりながら、白山手取川ジオパークを通じて白山の自然や地質の魅力、そして伝統工芸を世界に発信しています。

メイ・スーザン

加賀市「山の日」フォーラム 

加賀市をはじめとする加賀地域において、山の文化を守り継承する活動を続けてこられた方々の報告を行い、その内容を地域に根差した活動の一つのモデルとして全国に発信することを目的とし企画しました。
企画背景と狙いを記すとともに、報告の内容をまとめ、HPに公開しました。
【報告1】【報告2】【報告3】も山の日ネットワークからご覧ください。

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