閉じる

閉じる

山の日レポート

山の日レポート

通信員レポート

岐阜県の山へようこそ【前編】飛騨地方の山岳

2026.04.13

全国山の日協議会

岐阜県大垣市在住の『岐阜百秀山』の著者 清水克宏さんのレポートです

清水さんは日本山岳会編日本三百名山、全都道府県最高峰、信州百名山など、日本全国千山近い山に登り、モンブラン、キリマンジャロなど海外の山にも登頂。
2022年から5か年計画で、円空の足取りに沿いながら実地踏査を進め、『円空の冒険』諸国山岳追跡記を連載でレポートしてくださいました。
著作には『岐阜百秀山』があります。

*****

 2016年(平成28)8月11日に、山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する国民の祝日「山の日」ができて、今年は11年目。その記念すべき第10回「山の日」記念全国大会が、岐阜県で開催されます。
 岐阜県は、森林率が81%と日本第2位で、日本の3千m峰21山のうち9山が位置し、県歌に「岐阜は木の国、山の国」と歌われる日本有数の山岳県です。岐阜県は、県最高峰の奥穂高岳など3千mの高峰から濃尾平野の海抜0m地帯まで標高差があり、また、南北に150㎞、東西に120㎞以上の距離があって、夏が多雨な太平洋側の気候区、冬に豪雪に見舞われる日本海側の気候区、寒冷ながら降水量の少ない中央高地式の気候区にまたがります。そのため、気温、降水量、積雪量などに地域差が大きく、植生もさまざまで、文化的にも、東西は、東日本・西日本の境界にあたり、南北は、かつて美濃国であった美濃地方、飛騨国であった飛騨地方の違いがあります。そのため、多様性が岐阜県山岳の特徴となっており、岐阜県の山を巡れば、日本の山の諸相を一通り体験することができます。

図:岐阜県の山地

 しかし、県南端部の濃尾平野周辺に人口が集中しているため、岐阜県の誇る代表的な山々を日常目にする機会が少なく、山に関する情報発信も活発とはいえませんから、3千m級の山々にしても「岐阜県の山」とは十分イメージいただけていない実情があるかと思います。例えば「木曽の御嶽山」「加賀の白山」の半分が岐阜県にまたがっていることは、全国的にはあまり知られていません。
 そのような実情から、私は、愛する山への恩返しの思いを込め、2021年に、岐阜県民には、わが故郷に佳(よ)き山ありとの誇りを持っていただく一助となれば、そして、山を愛する皆さまには、岐阜県の山岳の佳さを知ってもらい、足しげく通っていただく手がかりになればとの思いで『岐阜百秀山』(ナカニシヤ出版刊)という本を刊行しました。
 ここでは、山の日全国大会に向け、改めて岐阜県の山の概要とその魅力を、「飛騨地方編」と、「美濃地方編」の2回に分けてご紹介したいと思います。



飛騨の山岳

 今回、第10回「山の日」記念全国大会の開催される高山市をはじめとする飛騨地方は、文字通り「山の国」です。東側の長野・富山県境には、「北アルプス」とも通称される飛騨山脈が展開し、そのうち岐阜・長野県境には同山脈の最高峰で両県の最高峰でもある奥穂高岳(3190m)や槍ヶ岳、焼岳、乗鞍岳など、日本を代表する名山高峰が聳えます。そして、岐阜・富山県境には、北ノ俣岳や黒部五郎岳が連なり、三俣蓮華岳が富山・岐阜・長野三県の境界となっています。また、主稜線から南西方向に分岐した稜線上には、岐阜県内の山としては最高峰になる笠ヶ岳(2898m)が笠のような優美な裾野を引きます。その主要な山域は、中部山岳国立公園に指定されています。

槍ヶ岳から望む笠ヶ岳と白山

 西側の福井・石川・富山県境には、両白山地の北部にあたる白山山地(加越山地)が位置します。中核となる白山(2702m)は、富士山・立山と並ぶ日本三霊山のひとつで、その名が示すように、冬の日本海からの季節風がもたらす深い雪が、豊かな水と森をはぐくんでおり、主要な山域は、白山国立公園に指定されています。

翠ヶ池越しに望む白山剣ヶ峰と最高峰御前峰

 このように、飛騨地方東西の県境部分に日本の山岳を代表する名山高峰が連なりますが、その間に地域にも世界遺産の白川郷が登山口となる最高峰の猿ケ馬場山(1875m)や池塘の美しい白木峰をはじめとする標高1000~1800m前後の飛騨高地の山々がひしめき、北は富山県南部、南は美濃地方北部まで及びます。そのうち、位山、川上岳、鷲ヶ岳など東西方向に連なる山々は、日本海と太平洋の分水嶺となっており、それ以北の降水は庄川、宮川となって日本海へ、以南は飛騨川、長良川となって太平洋に注ぎます。

飛騨高地の最高峰・猿ケ馬場山から望む岐阜・石川・富山県境の笈ヶ岳

飛騨山岳の個性とポテンシャル

 このように、山また山のひしめく飛騨地方は、例えば同じく山岳地帯を抱える長野県や山梨県と比べ、どのような特徴があるのでしょうか。
 まず―これは先に触れておいた方がいいのでしょうが、どうしても「マイナー」な印象がぬぐえないことがあるかとおもいます。その主な理由は2点あって、第1は、長野県や山梨県と比べると、相対的に首都圏からは遠い点があります。そのため、かつては飛騨山脈への登山には、長野県の上高地などからの入山者が圧倒的に多かった実情がありました。しかし、現在は、中部縦貫自動車道の安房トンネルが開通し、車利用であれば、岐阜県側の登山基地・新穂高温泉と、バスなどに乗り換える必要のある上高地とでは、東京からの所要時間はあまり変わらなくなっています。むろん、東海北陸自動車道の利用できる、中京地方、関西地方であれば、岐阜県側が最短です。
 第2には、飛騨地方は、高山盆地、古川国府盆地など小規模な盆地をのぞきすべてが山地で、松本平や甲府盆地のような広い場所から名山高峰をパノラマのように展望する場所に恵まれないことがあります。そのため、例えば高山市に観光で訪れても、名山高峰を目にしないまま帰られる方もあるのが実情かもしれません。しかし、それはいかにももったいないことで、例えば高山市街から車で10分ほどのアルプス展望公園「スカイパーク」や松倉城址などの展望地に立てば、乗鞍岳から、穂高連峰、笠ヶ岳、黒部五郎岳などの大展望が広がり、思わず声をあげたくなるほどです。市街地から直接、槍や穂高を目の当たりできる場所は他県にもなく、W.ウェストンが本邦随一と褒め称えたのもうなずけます。

画像:アルプス展望公園「スカイパーク」からの展望(撮影:木下喜代男氏)

 一方、山岳の持つ個性・ポテンシャルという視点からみると、飛騨地方の山は日本山岳ならではの個性にあふれ、国内だけではなく海外の観光客・登山客をも引き付けるポテンャルがたいへん高いことを2点ご紹介したいとおもいます。第1は、日本独自の山岳文化が色濃く残されている点です。江戸時代に飛騨は天領で、高山祭や、高山の民家などに訪れると、江戸文化と山国の風土が相まった高い水準の文化がここに花開いていたことが分かります。乗鞍岳、白山など日本独特の長い山岳信仰の歴史を持つ山もあります。また、私が本HPに連載した「『円空の冒険』諸国山岳追跡記」でご紹介したように、山岳修行僧円空は飛騨の地を愛し乗鞍岳や笠ヶ岳などで山籠修行をし、造像しました。千光寺(高山市丹生川町)、上宝ふるさと歴史館(同市上宝町)、下呂温泉合掌村円空館(下呂市)などで、荒々しさの中に人の心にすっと入り込むような微笑みをたたえた円空仏に出会うことができます。

高山市丹生川町 千光寺 円空作(左)両面宿儺像、(右)仁王像



 第2は、中央高地式気候で季節風の影響を受けにくい長野県や山梨県などの山に比べて、日本海側気候の影響を受ける岐阜県は、豪雪の山が多いことがあります。かつて、雪深いことはネガティブな印象を持たれがちでしたが、雪深い山あいに生きる人々の、粘り強さとその英知を感じ取ることができる白川郷が世界遺産に指定され、交通機関の発達で冬のアクセスも格段に良くなったこともあり、そのポジティブな側面が評価されるようになっています。山里らしい風情の、雪見のできる温泉も多いです。日本ならではの山岳文化の魅力、世界的に見ても有数の豪雪の風景は、日本人よりも、最近はむしろ訪日外国人客によって「再発見」され、SNS等を介して世界に知られ、にぎわいをもたらしています。

 岐阜県で開催される第10回「山の日」記念全国大会の機会に、他都道府県の皆さまばかりでなく、ふだん山と親しむ機会が少ない岐阜県平野部の方々にも、山の日の主旨にもあるように、山に登ることだけでなく、山の風景を眺めたり、自然の恵みに触れたりと、誰もがそれぞれのかたちで山とのつながりを感じていただければ、その個性やポテンシャルをきっと感じ取っていただけると思います。

白川郷から見上げる白山山地三方崩山

RELATED

関連記事など