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山の日レポート

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通信員レポート

立山信仰の世界へようこそ!【連載10】布橋灌頂会 ―女性救済の橋渡り儀礼―

2026.05.26

全国山の日協議会

 みなさん、こんにちは。富山県[立山博物館]館長の高野です。

 霊山・立山は、平安時代から女性救済の霊山として知られてきました。そして江戸時代には、秋の彼岸の中日に「布橋灌頂会」(ぬのばしかんじょうえ)という女人救済の法会が行われていました。今回はその法会について見ていきましょう。

血の池地獄の場面(立山曼荼羅吉祥坊本部分、立山博物館蔵)

(1)江戸時代の女性の願い

 江戸時代、男性は「あの世」とみなされた立山の山中に入り、擬似的に一度死んだことにして、禅定登拝(修行をしながら山に登り、山頂の神仏へお参りする)をすることで、苦行によって罪を滅ぼし、死後の極楽往生が約束されると説かれました。
 ところが、女性は「女人禁制」(にょにんきんぜい)の慣習から立山の山中に入ることを許されませんでした。
 当時の女性は、五障三従(ごしょうさんじゅう)の身といわれ、死後は必ず地獄におち、極楽往生も叶わないと説かれました。とくに怖れられていたのは、罪深い女性がおちるとされた「血の池地獄」(血の色をした冷たい池の地獄)でした。「血の池地獄」の苦しみをまぬがれ、来世の極楽往生をかなえたい女性が多くいたのです。
 立山の芦峅寺と岩峅寺の衆徒は、立山が女性救済の山岳霊場であることを説きました。そして「血盆経」(けちぼんきょう)や出血の不浄を除く「護符」(ごふ=お守り)の購入をすすめました。また、地獄谷周辺の「血の池」で行われた血盆経供養に対する納経などもすすめ、立山は多くの女性の信仰を集めたのです。

立山山中の「血の池」

(2)布橋灌頂会とは、どのような法会?

 江戸時代、秋の彼岸の中日(9月下旬)に、女性の参詣者が立山芦峅寺に参集しました。まず女性たちは、死装束である白衣を着て、「閻魔堂」で懺悔の儀式を受けます。続いて菅笠をかぶり、目隠しをして引導師に導かれ、この世とあの世の境界とされる、白布がひかれた「布橋」を渡ります。橋向いに行くことは、死後の世界に入ることを意味しました。うば堂に入り、天台系の「四箇法要」(しかほうよう)を行い、「血脈」(けちみゃく)という呪術的なお札を授かります。そして再び橋を渡ってこの世に戻ることで、死後の極楽往生が約束されたのです。これは一度死んだことにして、新たに生まれ変わるという儀礼(擬死再生儀礼)であると解釈されています。

「血盆経」と版木

 こうした儀礼がいつから始まったのか定かではありませんが、慶長19(1614)年8月、加賀藩の芳春院(前田利家夫人・まつ)と玉泉院(前田利長夫人・永)が芦峅中宮寺のうば堂に参詣した際、橋に布をかけ「大分之儀式」(たいぶのぎしき)を行ったと「一山旧記控」という古文書に記されています。これが「布橋灌頂会」の原形ではないかと考えられています。

 また、天正18(1590)年に、加賀藩の前田利家(初代)が布橋を修理し、慶長11(1606)年には前田利長(2代)が布橋をかけ直しています。寛永元(1624)年には、前田利常(3代)が、自身の逆修供養(ぎゃくしゅくよう=生前の供養)のために布橋の擬宝珠(ぎぼし)を寄進しています。

 こうした加賀前田家当主や奥方の実績が「布橋灌頂会」の格式を高めたのではないかと考えられます。

布橋灌頂会ジオラマ1(立山博物館展示館)

(3)現代に復活した“癒やし”の行事

 明治時代のはじめ、うば堂は取り壊され、布橋も次第に朽ちていき、布橋灌頂会も実施されなくなりました。ところが、1996年(平成8年)、富山県で開催された国民文化祭で、閻魔堂、新たな布橋(昭和40年代に再架)、うば堂の代わりとして立山博物館の遙望館を舞台として、復活したのです。

布橋灌頂会ジオラマ2(立山博物館展示館)

護符「血脈」・「変女転男」

 平成23年以降は「布橋灌頂会実行委員会」により、原則として3年に一度、開催されています。平成23年に日本ユネスコ協会連盟「プロジェクト未来遺産」に登録され、平成26年に「布橋灌頂会実行委員会」が「第36回サントリー地域文化賞」を受賞しています。

 布橋灌頂会は、新たなイベント性が加味され、富山県を代表する現代の「癒やし」の行事として人気を博しています。

布橋灌頂会復元イベントの様子1

 次回は、国指定重要有形民俗文化財の「立山信仰用具」について紹介します。引き続き、連載にお付き合いいただければ幸いです。

◎布橋灌頂会についてさらに詳しく知りたい方は、立山博物館の解説小冊子『布橋灌頂会』(税込200円)がオススメです。購入方法などについては、立山博物館(076-481-1216)までお問い合わせください。

布橋灌頂会復元イベントの様子2

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